ウィスタリア建国記
神様が封印されてる?
そんな設定、『恋革』では存在しなかったはずだ。という事は、私が知らないDLCの問題がこれなのかもしれない。
もちろん、DLCと全く関係ないかもしれない。だけど私には判断が出来ない。黙って院長の話の続きに耳を傾けるだけだ。
「世界を闇に染めようとした堕ちた神を、ボクらのご先祖様である『雪の妖精』が命懸けで封じた。言い伝えられてる御伽噺みたいにね。でもそれは一時凌ぎでしかなかったんだ。妖精が神様に敵うわけがない」
「土の大妖精の時と同じですね」
モグラもサルファーに長年なすすべなく封印されてたくらいだからね。
院長は私の言葉に頷いて、話を続ける。
「そう。だから『雪の妖精』が時間稼ぎをしている間に、ウィスタリアの息子が封印を補強する仕組みを作り上げたんだ。己の体と魂を使ってね」
「『ウィスタリア』も神様だから、その血を引いているならまだ神様に対抗できるって事ですね」
「そうだよ。だからウィスタリアの息子―――初代国王陛下の遺骸がここにある事に意味がある。彼は封印の要石みたいなものなんだ」
そう言って院長は棺の方を見やる。
初代国王陛下の遺骸がここにある理由も、『雪の妖精』の血族がそれを守る理由もなんとなくわかった。
しかし私は急速に嫌な予感に駆られて院長に恐る恐る尋ねた。
「でもその遺骸、損傷しちゃったんですよね?」
院長の御祖父様―――私にとっては曾御祖父さんによって。
「うん。だからあの遺骸にほとんど効力は残されてないんだ。下のモノが何かの弾みで出てきても不思議じゃない」
真顔でとんでもないことを宣う院長。
これ、絶対にDLCで出てくる奴じゃん。今度は世界の命運をかけて戦う感じか? ゲームとしては盛り上がりそうだ。現実としては最悪だよ。
「なんでそんな大事な人の目玉をえぐっちゃったんですか!? 王様からの命令よりも封印の方が大事でしょ!」
絶望しながら思わず八つ当たりで叫ぶと、院長は困った顔で私の方に視線を戻した。
「仕方ないよ。だってこの遺骸を動かさずに守れって事だけしか伝わってなかったから。下に何か封印されてることも、ここに棺がなんで置いてあるのかも知らされてなかったんだ」
「え?」
困惑して院長を見つめると、彼は肩を竦めた。
「本来は伝わってたのかも知れないけど、どこかで失われたか、それとも王侯貴族や国民にバレるのを恐れてあえて伝えなかったのか、わからないけどね」
モグラの時も誤った伝承が伝えられていた。時間が経つってそういうことだ。
「でも、院長は―――」
「ボクは見ればわかるよ。下にとんでもなく厄介なモノがいるのも、封印の仕掛けもね。―――後は『雪の妖精』本人から聞いた」
「え!? 『雪の妖精』って生きてるんですか!?」
伝承通りなら死んでるのかと思った。でも土の大妖精であるモグラも生きてるし、『雪の妖精』本人が生きていても不思議じゃないか。
「うん、この下でまだ頑張って封印を継続させてるよ。だから偶にしか話せないんだけどね。サクラも運が良かったら話せるかもしれない」
院長は頷きながら下を指さす。
ご先祖様がまだ頑張ってるなんて。
伝承が伝わらないくらいだ。院長は妖精と話せるから『雪の妖精』に気づいたけど、今までほとんどの人がその頑張りを忘れて過ごしていたに違いない。
「初代国王陛下の補助がなくなっても、一人で頑張ってるんですね……」
思わずしみじみと下を向いて呟くと、院長は今度は上を見上げる。
「完全に補助がなくなったわけじゃないよ。初代国王陛下は、いつか自分の身体や魂にも限界が来るとわかっていた。だから、自分の血族を封印の上に住ませることで、封印を補強することにしたんだ。『ウィスタリア』の血が薄まっても、数が確保されていれば封印は継続されると考えてね」
「じゃあ、この上にお城があるのはわざとなんですね」
私も一緒に上を見上げる。
こんな封印の真上に王族の住むお城があるなんて、考えてみればおかしな話だった。それにも理由があったんだ。
「最初は初代国王陛下が『ウィスタリア』の血族と、それを守る『雪の妖精』の血族が住める場所を作っただけだったんだ。そこに人が集まって町になり、都市になり、国になった。―――それがウィスタリア王国の始まりだよ」