王墓
たどり着いた先は地下とは思えないほどの広い空間だった。
壁は繊細なレリーフで彩られ、黄金の玉座に王冠、宝飾品の数々が並び、それらを守るように厳しい石像が置かれている。その中心には宝石で彩られた棺が鎮座していた。
ダイヤモンドが散りばめられ、繊細な彫刻が施されている棺を見て、以前院長が言っていた話を思い出した。
「ここって初代国王陛下の......」
「王墓だよ。『雪の妖精』の血族がずっと守ってきたんだ」
院長はいつにも増して真面目な顔だ。
「確かにこれは他人に教えられませんね。盗まれちゃいますよ」
私は周りを見渡して納得した。
副葬品としてこんなにお宝の山があったら、欲が出るのが人間だ。盗難防止のために知っている人数を限った方が良い。
しかし院長は興味がなさそうに周りの品々を一瞥した。
「装飾品はどうでも良いんだけどね。お祖父様とかその前も、お金に困った時に換金したりしてるし」
「えっ」
いいのか、それで。組織経営はお金がかかるとはいえ、歴史的にも価値のある物を売るな。
ドン引きしていたら、何故か院長はにっこり笑顔を向けてきた。
「売っても何故か持ち主が不幸になって、結局ここに戻ってくるんだ。だからサクラもお金に困ったら、ここの品物を売っていいからね」
「売りませんよ!? 呪いの付きの品物を軽々しく売らないでください!」
お金を儲けてお宝も返ってくるとか、詐欺もいいところだ。そんなヤバい物を流通させないでほしい。
「お宝なんて返ってこなくても良いんだけどね。ボクらにとって大事なのは、初代国王陛下の遺骸だけだから」
そう言って、院長は棺に近づいていく。
一方私はーーー動けなかった。
気持ちは院長についていこうと思っているのに、身体が言う事を聞かない。まるで足が地面に縫い止められたようだ。これ以上、棺に近づく事を身体が拒絶している。
身体だけでなく、精神もここにいるとどことなく落ち着かない感じがする。周りがお宝だらけだという緊張だけではなく、足元から這い上がってくるような冷たさがそれを助長させてくる。
そう、まるでこの下にとても怖いモノがいるような。
「院長。ひょっとしてこの下に、何かが封じられてるんですか?」
我慢出来ずに思わず尋ねると、院長は歩みを止めて振り返った。
「察しが良いね、サクラ。そうだよ。この下には堕ちた神が封じられているんだ」