隠された物
「僕は聞いたらダメなんですか」
「ダメ。これは『雪の妖精』の血縁にしか教えない事なんだ」
私の手をぎゅっと握ったまま、不安そうに尋ねるジェードに、院長は迷わず言い切る。
院長がそう言うのなら、いくら駄々をこねても無駄だろう。
私はジェードを安心させるように、ジェードの手を再度握った。
「大丈夫。そんなに心配しなくても、話を聞くだけだから。それに私も、院長の話を聞く必要があるって思ってるの」
DLC攻略の為にも院長の話は聞いておくべきだ。
ひょっとしたらDLCと関係ない話かもしれないけど、話を知らない私には判断が付かない。情報は集めておかないと。
決意を胸にジェードを見つめていると、ジェードは不安そうに瞳を揺らしながらも頷いた。
「わかった。でもサクラが受け止めきれない話だったら、僕に遠慮なく話して。僕はサクラが大事だから、言いつけを破っても話を聞くよ」
「ジェード……」
なんて優しいんだ。思わず胸にジーンときてしまう。
感動していたら、水を差すように院長の不貞腐れた声が割って入ってきた。
「サクラは真面目だし強いから、ジェードを頼ったりしないよ。そもそもボクがいるし。いいからさっさと戻りなよ」
まるで虫でも払うかのように片手でジェードを追い払う仕草をする院長に、ジェードは少しムッとした顔になる。しかし上役だからか、まだ院長が怖いのか言い返しはしない。
ジェードは名残惜しそうに私の手を離すと、席を立った。
「じゃあサクラ、後でね」
「うん」
ジェードは何度も私の方を振り返りつつ、部屋を後にした。仕事が終り次第、私の話を聞きに来てくれる気なのだろう。
良い弟を持って、私は幸せ者だ。
ジェードが退室するまで見送ってから視線を院長に戻すと、院長は相変わらず不貞腐れた顔をしていた。
「院長、後でジェードを虐めたらダメですからね」
「……わかってるよ」
釘を刺すと、溜息をつきながら明後日の方向を向かれた。
やっぱり院長って上に立つの向いてないんじゃないかな。感情的過ぎる。
そんなことを思っていたら、院長が流し目でこちらを見やり、私を手招いた。
「サクラ、こっちにきて」
急に何だろうと疑問に思いつつも、言われた通り一段高くなっている院長の椅子の近くまで移動する。
モグラも私の後をついて一緒に歩いてくる。多分、話が気になるのだろう。
院長はモグラを気にした様子もなく、立ち上がって自分が座っていた椅子の後ろに回る。
そこにあるのは真っ白な壁だけだが、院長が壁に触れた途端にその白が一部分だけ消えていく。
そして院長の触れた部分からドンドンと色が変わり長方形の扉―――の残骸が姿を現した。
扉はまるで無理やり吹き飛ばされたようなボロボロ具合だ。ほとんど原型を保っていない。
「ここ、本当は『雪の妖精』の特徴と同じ者しか開けられないようになってたんだ。今はボクが塞いでるけど、正直に言って昔の方が強固な術式で守られてたよ。……悔しいな」
院長が私の方を振り向いて、歯痒そうに呟く。
確かによく見ると、扉のあった部分に透明な膜のように覆いがしてあるのが見えた。これが院長の術なのだろう。
一緒に近づいてきたモグラがその透明な膜に触れて、難しそうな声を上げる。
「これも相当な実力者でないと破れないだろうに、これ以上の物が仕掛けられていたのか。それほどまでに重要な物がこの奥にあると?」
「そうだよ。お前には見せないけどね」
ツーンとそっぽを向く院長に、モグラがまた食って掛かりそうになる。それを抱き上げて口を塞ぎながら、私が続けて質問する。
「それが無理矢理破られたってことですね」
「そうだよ。10年前の反乱の日―――姉さんが殺されて、君が記憶を失った日に壊されたんだ」