恋愛対象
院長が色々言ってた手前口に出せなかったが、私はこの世界で恋愛的な意味で人を好きになれないと思う。
私の身体は16歳だけど、精神は30代だからなぁ。孤児院の子達はみんな、妹か弟みたいな感覚だった。
そうじゃなくても30代で高校生や大学生くらいの子と付き合うとか無理だ。身体が若くても、精神がついていかない。
前世のお母さんや妹なら『恋に年齢なんて関係ない!』とか言いそうだけど、私は無理だ。
反対に今30代のグレイ隊長とかと同じ歳くらいの人達は、大体結婚している。グレイ隊長がレアなだけだ。
舞台がなんちゃって中世ヨーロッパだからか、基本的に結婚するのが早いんだよね。
「婚約者でも決まってた方が結婚できる気がする......」
「「えっ」」
義務ならまだ割り切れるんだよな。家同士の約束だし、子ども作ってあとは好きにしてって言えそう。
でも私ーーーというかスノウの婚約者はフラックスなんだよな。でもスノウは死んだ事になってるし、私相手じゃフラックスが可哀想だ。
やっぱり私には結婚とか無理そうだな......まぁ結婚願望は前世からなかったから別にいいか......と思った矢先、ジェードが私の手を掴んだ。
ジェードは私の手を両手で包みこむように握って、真剣な眼差しを私に向ける。
「僕、もっとカッコよくなって、サクラに頼られるくらい強くなるから、それまで待ってて!」
「うん......? ジェードは今でもカッコいいよ」
突然の宣言に首を傾げながらジェードに告げると、ジェードは顔を真っ赤にさせた。
身内の贔屓目を除いても、ジェードはカッコいい方だ。今は天使みたいに可愛いけど、数年すればますますカッコよくなるだろう。
照れているジェードを微笑ましく眺めていると、院長がものすごく複雑そうな顔で口を挟んできた。
「ジェード......。サクラみたいなタイプは、いくら背が伸びて強くなっても『可愛い』って言ってくるよ。間違いない。そういう対象に含まれないから諦めた方が良い」
やたらと実感のこもった言葉だった。
なんの事だかわからないけど、確かにジェードはいくつになっても可愛いだろうな。弟だから。
しかしジェードは強く私の手を握って、院長に強い眼差しを向ける。
「僕は諦めません!」
「......そう」
先程までの怯えが嘘のようだ。堂々とした宣言に、院長は静かに瞳を閉じる。
「あっちに盗られるよりかは良いか.......」
またパワハラするようなら今度こそ殴ろうと思ったけど、何事か呟いて瞼を開けた院長は不貞腐れた顔をしていた。
「ジェードへの話はこれまでだよ。持ち場に戻って。ここからはサクラだけに話す内容だから」