正体バレ
私の正体?
前世がOLの精神年齢33歳……の方ではなく、院長が言っているのは今世の方だ。
つまり私がクロッカス殿下の娘であるという事。
ちらりとジェードを盗み見ると、青を通り越して白い顔になっているし、手も自分のズボンをぎゅっと掴んで震えているけれど、それでも院長から目を逸らしていない。
院長はそんなジェードを無感情で眺めながら、自分の手に顎を置く。
「サクラの件は詮索したら消されるかもしれないと、アンバーにも言われただろう。忘れたの?」
そのアンバーは院長なんだけど。ややこしいな。
院長は自分がわざわざ釘を刺したのに、私の事を調べたジェードを怒っているのだろうか。そんな風には見えないけど、無表情すぎて感情が読めない。
院長は私たちを見下ろしたまま悠然と続ける。
「お前がサクラがいつから孤児院にいるのか調べたり、亡くなった王族の個人情報を調べたり―――最後にはクロッカス殿下やスノウの事を調べていたのもわかっている。誰にも口外せずに自力で調べて、その後も黙っていたね。本当に優秀な子だよ、お前は」
皮肉ともとれる誉め言葉を投げて、院長は一息をつき背もたれに寄りかかる。
「ジェードならサクラに害になることはしないだろうと思って泳がせてあげてたけど、いつでも消せたんだからね。―――それで? わざわざ忠告を無視して調べた理由はなに?」
院長がわずかに目を眇めただけで、部屋の温度が下がった気がした。
返答次第で今ここで消すっていう脅しじゃん。
そういうところがパワハラ上司なんだよ。
そっとモグラを傍に置いて、拳を握りしめる。モグラもやっちまえ〜! というように拳を振り上げる。
しかし私がスタートダッシュを決める前に、ジェードが決意を秘めた眼差しで口を開いた。
「僕はサクラを守りたかったんです。貴方がサクラを利用しようとしているのなら、僕は命をかけてサクラを逃がそうと思っていました」
ジェード......なんて姉思いの良い子なんだ......。
私が院長に虐められてると思って、そんな決意までしていたなんて。
弟の発言に感動している私と対象的に、院長は呆れたようにため息をついた。
「そういうのはボクから逃がせるくらいの実力がついてからにしなよ。ただお前が無駄死にになるんじゃ意味がない。......守りたいなら、お前も生きてないとまた何かあった時に守れないだろ、ジェード」
院長の言葉がどこか優しげに聞こえたのは私だけではなかったようだ。その証拠に、ジェードが驚いたように目を見開いている。
院長、ひょっとして私とジェードにリリーさんと自分を重ねてるところがあるんだろうか。
私達の驚きを意に介さず、院長は再び指を鳴らす。
すると私の髪がピンクから白へと色が抜けていく。
それを横目に院長は話を続ける。
「ジェードの言う通り、サクラはクロッカス殿下の娘だ。それと同時に『雪の妖精』の末裔でもある。だからジェード、何かよくない事があったらサクラを保護してここに避難させて。ここなら古の魔法がサクラを守ってくれてるから、大抵の事が起きても安心だ」
良くない事ってなんだ。フラグか?
主人公を連れて逃げるなんて、ゲームと同じ事をしようとしてました。サクラは言われても逃げないと思いますが。