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本部

「それって私が行って大丈夫なの?」


 思ったことが口にも出てしまった。

 国の暗部みたいなものだ。普通にお呼ばれする場所ではない。


「あの方が呼んでるんだから大丈夫だよ。それに……何かあっても、僕が絶対に守るから……!」


 ジェードが決死の覚悟みたいな顔で私を見上げてくる。

 何を覚悟してるんだ、ジェード。私が消されるとでも思っているのだろうか。

 私は心配性な弟分の手を握り返した。


「ジェード、そんなに心配しなくても大丈夫だよ。院長の事だから、見せたいものがあるとか案内したい場所があるとか、急な思い付きで呼び出しただけだと思う。あの人、気分屋だから」


 私の誕生日に急に山に連れて行って、狼の群れに放り投げるタイプの人だ。十中八九、難しいことは考えていない。私に喜んでほしいと思って、斜め上の行動を取るだけである。


「そんなことないよ。あの人は恐ろしい人なんだから、油断しちゃだめだよ」


 ジェードは必死に言い募るけど、その『恐ろしさ』って『影』を統括するための院長の演技なんだよな。院長は先代からの悪癖を残らず真似してしまっているから、こんなことになっているのだ。

 院長が全く良心を痛めないのも問題なんだけど、それも幼少期から人じゃなくて妖精と親しかったせいだ。

 そこら辺の齟齬を埋めようとして、恐怖政治を突然止めたら待っているのは内部の暴動だ。飴と鞭で徐々に緩和するか、代替わりで変えるくらいしか私には思いつかない。


 とりあえずジェードが院長に怯えっぱなしなのは可哀想だし、トラウマの払拭のためにも院長は一発殴ろう。


 私は決意と共に、不安そうに私の手を握っているジェードを見つめなおした。


「ジェードの言いたいことはわかったよ。油断しないようにする。でもそろそろ行こう? 院長を待たせるのも悪いから」


 ジェードは私の言葉にはっとしたような顔をして慌て始めた。

 院長を待たせるのが怖いみたいだ。相当なトラウマである。やはり殴るべし。

 ちなみに私の言う『油断しないように』っていうのは、院長が善意で『鍛えてるって聞いたから、ボクも色々用意したよ!』って魔物の群れに放り込まれるかもしれないから、気を引き締めるって意味である。

 あの人はやりかねない。

 今回の用件は不明だが、この間ダンジョンで話した『初代国王の棺』でも見せようと思ってるだけじゃないかな。あれも『影』で保管してるって言ってたし。

 それならジェードを介さずに、直接呼びに来てくれれば良かったのに。

 ジェードは私の手を離すと、部屋の壁に向かった。そして壁を何度か叩き、また別の場所を叩くのを繰り返す。

 普通なら正気を疑うところだが、この正解は剣と魔法のファンタジー世界だ。ついでに前世でも某魔法学校シリーズで、壁を杖で叩くと道が開くシーンがあったのを記憶している。

 それのパロディなのかオマージュなのかしらないが、ジェードの行動で壁が意思を持ったように動き出し、扉が開いた。


 確かアイリスが逃げ出したのも、トイレに隠し通路があったからだよね。

 ひょっとしてこの城、そういう仕掛けだらけなのか?


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