DLCに向けて
土の大妖精のダンジョン踏破から暫くして、会談を終えたサルファーの皇子一行は、予定通り帝国へと帰って行った。
皇子は『暗殺者から助けてくれた』私を連れて帰りたがっていたようだが、私が貴族でもないし、使用人でもないので会う機会が少なかった。その上、殿下や院長が気を回してくれたのか、帝国の人たちと全く顔を合わせなかった。
それでも今までの経験から、私自身も警戒に警戒を重ねて帝国の人と顔を合わせないように気を使った。
これに関しては何故かジェードもフラックスも、救護室のフォーサイシアも協力してくれた。ありがたい。口が達者な面子だから、フォローしてくれてとても助かった。
それもようやく終わり。それらから解放されて、元の日常に戻る事が出来る。
私は早速、仕事終わりにグレイ隊長の元に向かった。
「修行させてください!」
「嬢ちゃん......もう俺の指導なんかいらないと思うんだ」
腕を組んだグレイ隊長が真顔で忠告してくる。
私はその言葉に納得がいかずに、少し考えてから口を開いた。
「弱っていたとはいえ、ドラゴンを倒したからですか?」
「そうだよ、もう十分だろ? 軍でも中々そんな強さの奴はいねーよ」
確かに、一般人からしたら強いとは思う。
グレイ隊長からも強さを認められたのは嬉しいが、私はもっと強くならないといけない。
なぜならこれからDLCが来る。絶対に来る。本編が終わったからもう安心、なんて油断してはいけない。
もちろんDLCに巻き込まれたくないけど、いままでの経験からして何かしら巻き込まれるに決まっている。もう諦めた。
DLCでは本編より強い敵が出てくるだろう。
院長がボス疑惑もある。院長と敵対するとは限らないけど、そのレベルの敵が出てくるかもしれない。
だからーーー
「私は院長と戦って勝つのは無理でも、せめて生き残るくらいには強くなりたいんです!」
「嬢ちゃんは何を想定してるんだよ......」
グレイ隊長が引いた目で見てくるけど、説明しても理解してもらえないだろう。前世がどうこう話したら、頭の病気を疑われる。
でも私も引くわけにはいかない。命がかかっている。
「お願いします! グレイ隊長しかいないんです〜!」
前に頼んだ時と同じように、頭を下げて頼み込んでゴリ押す。
院長に頼んでも喜んで修行してくれそうだけど、二重生活の忙しさを聞くと頼むに頼めない。ちょっとくらい休んで欲しい。
グレイ隊長も忙しいから頼むのは心苦しいんだけど、強さ的に適正なのはグレイ隊長しかいないのだ。
私がしつこく頼んだせいか、グレイ隊長は渋々といった顔で折れてくれた。
「仕方ねぇな......。でもあんまり期待するなよ? 嬢ちゃん、俺より強いーーー」
「たのもう!!」
グレイ隊長の発言は、突然の訪問者の叫びに遮られてしまった。この声には聞き覚えがある。
私とグレイ隊長が胡乱な顔で訪問者を見やると、そこには予想通り、ロータスがいた。
もう関わる事はないと思っていたけど、何の用だ。