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ダンジョン制作

「術式への干渉は上手くいったのでしょうか?」


 私は殿下に尋ねると、殿下は穏やかに笑って頷いた。


「ああ。封印を解いても地震が起きるのはこの次元にある洞窟に限定した。後は魔力のある誰かが石碑に触れれば封印が解かれるようにしてある。膨大なエネルギーだから、少なからず向こうにも影響は出るかもしれないが……それでも人が感じるか感じないかの地震程度に収まるだろう」


 凄いな、ラスボス。もう、この人だけでいいんじゃないか?


 あっさりとは言えずとも解決したことに安堵する。

 そして私は改めて殿下に向かって頭を下げた。


「ありがとうございます、殿下。私のせいで色々ご迷惑をおかけして申し訳ありませんでした。こんな事態になるとは思わず……」


 私の言葉をクロッカス殿下は首を横に振って遮った。


「お前が無事で良かった。それ以上の喜びはない。それに、民を脅かす危険を取り除くのは王族として当然の事だ。感謝されることではない」


 殿下の優しい言葉が胸にくる。それと同時に、こんなにみんなの事を思ってるのに、なんでこの人は報われないんだろうって憤りも胸に沸く。父親とか血縁を関係なしに、助けてあげたいと思ってしまう。

 きっと殿下と付き合いの長い院長もグレイ隊長も、私と同じ気持ちなんだろう。

 私が胸いっぱいになって返事を返せないでいると、クロッカス殿下が空気を換えるように別の話題を振る。


「このまま封印を解くと、返ってサルファー帝国に怪しまれる上に、神の術式に干渉できる者がいると知れれば帝国に警戒感を抱かせてしまう。アイリスは帝国との平和な交流を望んでいるからな。私としては調査の報告だけをして、解決は向こうに任せようと思う」

「そんなこと出来るんですか?」


 私が困惑して尋ねるとクロッカス殿下は事も無げに続けた。


「先ほど干渉した時に、この洞窟内の仕掛けや道筋を前とは改変した。そこに設置した仕掛けを解いてここに辿り着けば、術式が変更されて向こうに影響が起きない、という説明書きも置いておいた。無論、そんなことをしなくてもすでに術式は書き換えてあるが、何事も自分たちで乗り越えたという説得力が大事だからな」


 ダンジョンを制作するな。

 さっき殿下してたのはゲーム本体への不正アクセスだったのか?

 規格外の事を言っているはずなのに、側近二人は驚きもせず普通に聞いている。

 ひょっとして、殿下がこんな無茶苦茶するのが当たり前だったりする?


「ただ、封印を解除した後にここから逃げる時間が必要だな。アンバー、前に私たちで作った鏡を出してくれ」

「はい。これですね」


 院長は殿下の言葉に頷いて、どう見ても何もない空間に手を突っ込んで、見たことのある鏡を取り出した。

 一瞥すると『真実の水鏡』にそっくりな代物だ。ただ鏡面は本物の『水鏡』のような水面ではなく、ただの鏡である。


「なんですか、それ?」


 急に出てきた謎の代物を眺めていると、院長ははにかみながら答えた。


「これはボクと殿下で『真実の水鏡』を作ろうと思った時の失敗作だよ」

「何を作ろうとしてるんですか???」


 唯一無二の国宝だろ。それも現代技術じゃ干渉も出来ないレベルの古代遺物だって話だったじゃないか。

 ドン引きしていると、クロッカス殿下も苦笑いしながら話に加わってきた。


「若かったんだ。アンバーと二人なら作れると思ったんだがな。どうにも上手くいかなくて……」

「まず作ろうと思わないですよ」


 グレイ隊長のツッコミに反して、院長殿下は『あの頃は若かったな……』みたいな顔をしている。

 さらには院長が拳を握りしめてクロッカス殿下に向き直った。


「でも殿下。ここに来てわかったんですけど、あの水鏡にはここの水晶が使われてます。ここの水晶は土の大妖精の力が付与された特別な物です。つまり、材料が悪かっただけでボクと殿下が間違ってたわけじゃないんですよ」

「そうか? その水晶だけだと足りないと思うぞ。水鏡は六属性の力が均衡に働いている。水鏡にこの水晶が使われているなら、恐らく他の大妖精の力を受けた物も必要に―――」


 少年のように目を輝かせて和気あいあいと話し始める二人を、グレイ隊長がストップをかける。


「そういう話は帰ってからにしましょう。アンバー、お前だって消耗してるんだから早く帰るぞ。嬢ちゃんもいるんだからな」

「はいはい、わかってるよ。これを取り付けたら帰るから、ちょっと待ってて」


 そう言うと院長が鏡を浮かせて、石碑の近くに取り付けて始めた。

 ついでに鏡が見えないような位置取りに合わせて目隠しの呪文まで使っている。

 それを見ながら私はまた疑問を口にした。


「あれでこの場所に地震が起こるまでの時間稼ぎ出来るんですか?」


 封印を解いたらここだけに地震が起きるって事は、この場で封印を解いた人がその地震に襲われることになる。

 それを防ぐためにあの鏡を設置するって事なんだろうけど、それだけの力があの鏡にあるってことなんだろうか。

 それに関しては製作者の一人である殿下が答えてくれた。


「ああ、サクラは『水鏡』が魔法を跳ね返したのを見ただろう。あの鏡も同じことが出来る。『水鏡』と同じで一度力を中に取り込んでから外に吐き出す仕組みなんだ。鏡が力を取り込んでいる間に脱出すれば良い。今回は膨大なエネルギーに負けて、途中であの鏡が割れてしまうだろうが、時間稼ぎが出来れば良いし、どうせ失敗作だ。惜しい物ではない」

「本当に失敗作なんですか?」


 その機能が備わっているなら、十分実用化の範囲内な気がするんだけど。

 しかし殿下は譲らなかった。


「私とアンバーは『真実の水鏡』が作りたかったんだ。劣化品を作りたかったわけじゃない」


 そのこだわりのせいで実用化に至らなかったのか。色々役に立ちそうなのに。

 そんな事を考えていると、グレイ隊長が私の肩を叩いた。見れば、諦めのような表情を浮かべている。


「あの二人は暇してると『作れるから』『なんとなく』で、とんでもない物を作るからな……」


 天才って怖いな。二人とも忙しい今の方がよっぽど安全かもしれない。


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