再びダンジョンへ
私の発言に、クロッカス殿下の側近二人は難しい顔をして黙り込んでしまった。
実際、殿下は反対してるし二人の負担になるようなら止めようと思ったんだけど。暫くの沈黙の後、院長とグレイ隊長は顔を見合わせた。
「二人が別々のところに居て、違う騒動を起こされるよりマシかな……?」
「そうだな……。一緒の方が手間がかからないよな……」
「そんな頻繁にトラブルが飛んでくるわけないじゃないですか」
私が抗議の声を上げると、二人から憐れんだ眼差しを向けられた。
クロッカス殿下と違って、私は自分からトラブルに突っ込まないぞ。
憤慨していると、黙ってやり取りを聞いていたクロッカス殿下が咳ばらいをして皆の注目を集めた。
「確かにアンバーとグレイがいるならどこよりも安全だ。私としては気乗りはしないが、サクラがいてくれるなら手早く帰ってこれるだろう。サクラがアンバーとグレイを無視して、前に出るような真似をしないよう誓ってくれるならば共に行ってほしい」
「はい、お約束します」
私は迷いなく頷いた。
そもそも院長もグレイ隊長も私より強いんだから、その二人を押しのけて前に出るなんて自殺行為だ。絶対にしない。
一方の院長とグレイ隊長は腕を組んで目を眇めている。
「ボクたちを無視して前に出るのは殿下ですよね」
「本当に止めてほしいよな」
「私は二人を無視したりしないぞ。自分が必要だと判断したら前に出るだけだ」
しれっと自分の意見を優先させると明言してる。
どんだけやんちゃなんだよ。ラスボスらしく後ろでどっしりと構えててほしい。
でも考えてみたら、アネモネが暴走した時もクロッカス殿下が単独で助けに来てくれた。院長に任せたらアネモネを見殺しにされると思っての行動だろうけど、それでも真っ先に助けるために体が動いてしまう人なんだろう。
ラスボスなのに主人公気質なのなんなんだ。そうでもしないとラスボスに仕立て上げられなかったゲームの問題か?
困惑していたら、待ちくたびれたモグラが足を踏み鳴らしながら声を上げた。
「話は決まったか? ではさっさと行くぞ」
そう言うと、モグラは天に両手を掲げる。前に見た時と同様に、モグラの頭上に真っ暗な空間の亀裂が現れた。しかし前は急激に亀裂が開いたのに対して、今回は時間をかけてゆっくりと空間が開いていく。
これなら前回のように急に吸い込まれたりしなさそうだ。良かった。
安心していると、院長が私の肩を叩いた。
「サクラが土の大妖精を抱えてて。逃げられないようにね。土の大妖精と一緒なら、何かあってもそいつが守ってくれるでしょ」
「わかりました」
なるほど。モグラを盾にすれば何かあっても守ってもらえるわけね。
口には出さないけど、院長にそういう意図があるのは一目瞭然だ。何事もなくただ守って貰おうなんて甘い考えは持ったらダメだ。危険が迫ったら遠慮なくモグラを盾にしよう。
そう決意して、私はダンジョンから出てきた時のようにモグラを抱える。
モグラに抵抗されるかと思ったけど、あっさり私の腕の中に納まってくれた。
余程抱っこが気にいったのか、盾にしようって意図に気づいていないのか。多分、両方だな。
何にせよ、今回は土の大妖精に加えてラスボス陣営と一緒だ。なんの不安もなく、私はダンジョンへ足を踏み出した。
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これまで書いてこれたのは、作品を読んでいただいた皆さんのおかげです。
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