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アイテムコンプリート

 殿下の発言に、側近二人は諦めの境地である。


「今から......行くんですか?」


 念押しを兼ねて、言いたいことを全て飲み込んだグレイ隊長が眉間に皺を寄せながら尋ねる。


「今なら時間が空いている。これからの緊急の会合や普段の仕事を考えると、今しかないだろう」


 そんなに忙しいのに、自分から危険に突っ込むな。


 思っても私は言えないけど。いくら血縁的に実の父親でも王族で上司だから。

 これが院長なら拳込みで反論する。

 その院長もこめかみを押さえながら、もの凄いため息をつく。


「はぁ......わかりました......。どうせ止めても聞かないので、さっさと行って調べてきましょう」


 あの院長を振り回せるのは殿下だけだよ。ある意味尊敬する。

 話が決まったところで、院長はモグラに無機質な視線を向ける。


「さっさと向こうへの扉を開いてよ。土の大妖精サマなら簡単でしょ」


 声にまで感情が乗っていない。自分が関心があるものとないもので、温度差がありすぎだろう。0か100しかないのか。

 今まで殿下やグレイ隊長と話していただけに、落差がすごい。

 人によって態度を変える失礼な院長に、モグラは鼻を鳴らす。


「別に構わないが、我が空間を繋げると目的地から少々離れた場所に開くぞ。ちょうどお前が最初に飛ばされたような位置だ」


 そう言ってモグラは私を指差す。


 ダンジョンが不正でショートカットされないようにしてあるんですね。わかります。


 ゲーム的にすぐクリアしたらつまらないもんな。

 メタ的な大人の事情を考慮出来る私と違って、院長は不満そうに眉を釣り上げる。


「はぁ? そこはなんとかしてよ。大妖精でしょ? 人に頼んでおいてそれ?」

「うるさいわ。嫌ならお前が自力で開かんか」

「ボクにはサクラっていう目標があったから、その魔力と縁を辿って空間をこじ開けたんだよ。魔力消費もバカにならないし、できれば二度とやりたくない」

「ほう? 結局出来ない言い訳か。小童が」


 言い合いしながらも二人の間に魔力が渦を巻く。一触即発とはまさにこの事だ。

 殿下とグレイ隊長にはモグラの言葉が聞こえないから、止めるに止められない。

 唯一モグラの言葉が聞こえる私が慌てて仲裁に入ざるを得ない。


「わかりました! 私が案内します! 一回行って覚えたので!」


 実際にはゲームで何回も行った。

 むしろ『恋革』はアイテムコンプまで妹にさせられたから、ダンジョンの構造は大体覚えている。


 今となっては、もっと他に覚える事があっただろうって後悔してるよ。


「え、そんな、危ないよ。そんな事しなくていいよ、サクラ」


 今までの煽り合いと打って変わって、院長がキョドりながら答える。

 そんなに驚いたのか。

 さらには私の言葉に院長どころか殿下まで難色を示す。


「わざわざ好き好んで危険に身を晒す必要はないぞ」

「「殿下が言わないでください」」


 側近二人から睨まれて、クロッカス殿下はやや困った顔になる。

 でも殿下が行くなら尚更安全な方が良いと思う。

 私なら最短距離でダンジョンを通過出来るし、ラスボス陣営と行くなら雑魚敵も楽勝だろう。

 そもそもロータス達をレベル上げしながら、土の大妖精がいる最終地点まで縛りプレイでクリアしたんだ。

 もう少し私を信用してほしい。

 それに、だ。


「そもそも私がモグラ......じゃなかった。土の大妖精を宝石から出したのが原因です。少しくらい、解決のお役に立たせてください。そうしないと罪悪感が拭えません」


 不可抗力とはいえ、私が始めた騒動なので少しでも尻拭いしないといけない。

 大人として。


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