最強の布陣
グレイ隊長と言い合いをして少し冷静になったのか、ふと院長が私の方を見る。そのままずんずんとこちらに近寄ってきたと思ったら、急に私の両肩を掴んできた。
「違うんだよ、サクラ……。殿下の口車に乗せられただけで、君の事が一番なんだ……。君がピンチになったら殿下なんて置いてすぐに駆け付けるから、大人しく留守番してるんだよ」
「そこは殿下を守っててくださいよ」
助けに来てくれるのは助かるんだけど、私はトラブルに巻き込まれる予定はない。危険に飛び込もうとする殿下の方が護衛として重要だろう。上司だし、国にとっても重要人物だ。
「そんなことないよ! 殿下だってサクラを優先しろって言うもん! そうですよね、殿下!」
鬼気迫る表情でクロッカス殿下を睨む院長。
脅しのようにも見えるが、クロッカス殿下は朗らかに頷いた。
「そうだな。アンバーには私よりサクラを守ってほしい」
「ほらね」
院長はにっこにこで私の方を見る。
親バカ×2だったか。グレイ隊長が呆れてるよ。
「アンバーは本当に嬢ちゃんに何かあったら、仕事も何も放りだして窓から飛び出して行くくらいだからな。それも殿下が許してるからなんだが」
「それは……すみません」
グレイ隊長が遠い目になっている。
今まで私が巻き込まれたトラブルで一々そんなことになってたのか。大変申し訳ない。
思わず謝るとグレイ隊長は表情を緩めた。
「気にすんなよ。嬢ちゃんに何かあったら事だ」
「ああ。私の傍にはグレイがいてくれるから、何も問題ない」
クロッカス殿下が頷きながら続ける。
グレイ隊長は嬉しいのを誤魔化すみたいに唇をかみしめて、殿下に礼を言う。
「……おほめに預かり光栄です。殿下」
この結束力が高い二人に加えて、昔はリリーさんまでいたのか。最強の布陣では?
そりゃ殿下がいくらトラブルに首を突っ込んでも生き残るわな。それでもなお、リリーさんが殺されたんだから、世の中わからないものだ。
納得していたら足元のモグラが退屈そうに声を上げた。
「それで、我の封印にいつ行くんだ?」
「ああ、そうだった。殿下、土の大妖精がいつ行くか聞いてます」
完全に話題を失念していた顔で院長が殿下に尋ねる。
クロッカス殿下は顎に手を当てて少し考えてから頷く。
「そうだな、早い方がいいだろう。今から行くか」
即断即決過ぎる。
私としては食事会がキャンセルになりそうなことの方が万々歳なんだけど、言わないでおこう。