フラグは折るもの
ジェードの後に続きながら城の中を進む。周りを見ると緊張が顔に出てしまいそうなので、務めて彼の背中だけを見て歩く。おかげで不審がられることもなく、アイリスが普段使っているトイレまでやって来れた。モブ顔で良かった。
ようやく辿り着いたお手洗いを覗く。
広い。広すぎて落ち着かない。お手洗いの広さだけで孤児院の私の部屋より広い。
でもこのお手洗いの部屋の中に隠し通路があるのだ。
「本当にここに隠し通路があるの?」
隣のジェードも落ち着かなさそうにしている。
それはそうだ。誰かに見られたら言い訳に困るし、何もなかったらただ女王陛下のトイレを眺めに来た変態になってしまう。
「うん。確かこの辺りで……」
トイレの一番奥の壁の前に立つ。
アイリスが城から抜け出すのはどのルートも共通なので、ここは何回もPVで見るしこのセリフはCMでも流れてた気がする。
「『ウィステリアを助ける雪の妖精よ、その道を示せ』」
すると私の前にあった壁が蜃気楼のように揺らめく。そっとその壁に触れると、何の抵抗もなく自分の腕が壁を通過した。
通過した先で、指に風の流れを感じる。この先も何処かに繋がっているのだろう。
「……よし」
恐る恐る、自分の頭も突っ込んでみる。
その先にあったのは壁と壁の間に作られた通路のようで、永遠と下り坂になっているのが見えた。
しかし明かりもないのでかなりの暗さだ。
『身体強化』の魔法で視力を強化してなんとか先が見通せるだけまだマシかな。
「あったよ、ジェード! これで安心だね!」
壁から頭を抜いて振り返ると、ジェードは半場呆然としていた。
「本当にあったんだ……」
「トイレって絶対行くところだから、脱出経路を確保するのに丁度良かった……のかな?」
大体一人で入るところだしね。
これで万事解決……と思ったが、そうでもなかった。
「これがどこに繋がってるか調べてくるよ。通路の中もどうなっているか気になるから」
ジェードは真面目だ。報告してから他の人といっそに調べたらいいのに。
いや、ひょっとしてそこまで調べないと説教されるくらいのパワハラ職場か? 話に聞いた感じそんな気もする。
「私も行くよ。ジェードに案内してもらわないと帰り道もわからないし」
城の中で迷いたくない。変なフラグを踏むのはこりごりだ。そんな私をジェードは呆れた顔で見た。
「……しょうがないな」
「だって緊張してジェードしか見てなかったんだもん」
「……その言い方はズルいよ」
なぜか顔を逸らされた。
耳が赤くなってるのは気のせいか? 気のせいだな。