神の呪い
院長は宇宙猫みたいな顔になった。
ついでにグレイ隊長も同じような顔をしている。殿下から聞かされてなかったらしい。
数秒の沈黙の後、二人は両サイドから殿下に詰め寄った。
「ご自分の立場を考えて下さい。ダメに決まってるでしょ!?」
「俺、聞いてないんですけど。自分から問題に突っ込んで行くの止めてください。嬢ちゃんが真似したらどうするんですか」
キレ気味に殿下の前の机を殴ってへこませる院長と、至極冷静に詰め寄るグレイ隊長。
そうだよな。殿下は王族だもんな。守られてしかるべきだし、上に立つ者が軽々しく危険に身を投じるのはダメだよ。
しかしクロッカス殿下は涼しい顔で二人を見る。
「私が行くのが一番早いだろう」
「はぁ!? ボクは!? ボクがいれば何とでもできますけど!?」
とんでもなく驕った発言だが、院長が言うなら何とか出来るんだろう。
しかし殿下も譲らない。首を横に振って否定する。
「お前が妖精の血を引いていても、相手は神の子だぞ。我々には大昔の事だが、相手はそうでもない。その術式に干渉するのも解除するのも、相手にどう思われるかわかったものじゃない。その点、私ならすでに呪いを受けた身だ。一つも二つも変わらない。―――神の呪いなぞ、受けるのは私だけで十分だ」
クロッカス殿下はただ静かな面持ちで滔々と語る。その顔に悲壮感は見えない。対して側近二人の方が痛まし気な悲しい顔をしている。
ひょっとして殿下が自分が死なないといけないって言ってるのは、この呪いのせいなんだろうか。
モグラも納得したように頷いた。
「ああ、あの呪いは神の子から受けた物か。通りであのクソ生意気な妖精の末裔がいるのに呪いが解除されないわけだ。妖精より神の子の方が上位存在だからな」
院長はぎろっとモグラを一睨みした後に、殿下に視線を戻す。
「そこはボクが上手くやればいいだけでしょ。要はバレなきゃいいんですよ。ボクはそれくらいできます。信じてくれないんですか?」
院長は憤然として。対してクロッカス殿下はため息をついて、仕方ないというように頭を振ってから再度院長を見た。
「オレは自分よりお前が大事だと言ってるんだ。オレがしくじったら、お前が何とかしてくれ。アンバー」
柔らかな笑みと共にそんな事を言われた院長は、声もなく自分の目を覆った。
なんか強い光で目が焼けた人みたいだ。今にも『目がぁ!』叫びそうな雰囲気である。何が見えてるんだ、この人は。
クロッカス殿下はそんな院長を華麗にスルーしてグレイ隊長に目線を向ける。
「そういうわけだ。護衛を頼むぞ、グレイ」
「はい。……一度言い出したら曲げないんだから……」
生真面目に頷いた後、グレイ隊長がぼやく。
それも絶対に聞こえているだろうに、クロッカス殿下は気にせずに笑って再び院長に視線を向ける。
「アンバーはサクラと留守番しててくれ。ついでに私の姿で周りを誤魔化しておいてくれると助かる」
「はぁ!? ボクも行きますけど!? 仲間外れにしないで―――じゃなくて、グレイだけじゃ心配だから、ついて行ってあげますよ!」
「俺をダシにすんな!」
再び騒ぎ出した側近二人を再び殿下は笑顔で見守っている。
ラスボス陣営、いつもこんな感じなんだな……。