戦闘民族
思い切り顔面を殴ったにも関わらず、院長の顔は少し赤くなったかな? くらいの変化しかない。本人はまたシワシワの電気鼠みたいな顔をしてしょげてるけど、ダメージが入った様子もない。
鼻血すら出てないのはなんなんだよ。イケメン補正か?
オマケに体幹も微塵もぶれない。壁でも殴ったみたいだった。やっぱりめちゃくちゃ強いな、この人。
おそらく、私の攻撃なんて避けられたはずなのに、私の気持ちを収めるためにあえて殴られてくれたのだろう。
ちょっと......いや、かなり悔しい。もっと強くならねば。魔法じゃ勝てないから、力とスピードだな。
「今度は院長を一撃で落とすくらいに強くなっておくので、また騙すような事をしたら覚悟しておいてください」
決意と共に拳を握って宣言すると、院長は嬉しそうに目を細めた。
「それくらい強くなればボクも安心だな。でも、それで満足せずにできればボクより強くなってほしい」
「頑張ります!」
「蛮族の会話か?」
話を聞いていたグレイ隊長が何故か引いた目で私達を見つめている。
一方でクロッカス殿下は懐かしそうな顔で口を開いた。
「リリーも似たような事をよく言っていた。懐かしいな」
「妖精って戦闘民族なのか?」
グレイ隊長が死んだ目で尋ねてくる。そこで先程から院長を指指して笑っているモグラに聞いてみた。
「妖精って強い奴が正義みたいな事を院長が言ってたけど、合ってる?」
「合っておるぞ。我も強いから大妖精と崇められているのだ」
ドヤるモグラと頷く院長を見て、改めてグレイ隊長に答える。
「概ねその認識で間違えてないですね」
「アンバーと姐さんだけじゃなかったのか。妖精のイメージが崩れるな......」
グレイ隊長が頭が痛いみたいに額を抑える。そんなグレイ隊長の肩を訳知り顔で院長が叩く。
「みんな見た目はファンシーだったり可愛い感じだから、伝承通りだよ」
「それで中身が戦闘民族なんだろ。余計に嫌だ」
確かにギャップがありすぎるもんな。グレイ隊長が幻滅するのも納得だ。
私まで戦闘民族のくくりに入れられたのは納得いかないけど、今はそれよりも聞かないといけない事が山のようにある。
主に院長の事についてだ。
「グレイ隊長は院長の事、アンバーって呼んでますけど、本当の名前はなんですか?」
今まで名前を呼んではいけないあの人並みにはぐらかされてたけど、やっと聞く事が出来る。