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インシデントとアクシデントはその後の対応が重要

 殴られた院長はしょぼくれた顔をしているが、ダメージを負っている様子は全くない。精神的にはダメージが入ってそうだけど。

 後ろではモグラが指をさして院長を笑っている。どうやら緊急会議は終了したらしい。

 ということは、クロッカス殿下ももう少しで戻ってくるだろう。院長と話をしていたせいで、食事会から逃げられなくなってしまった。

 仕方ない。今回は諦めよう。

 改めてシワシワの電気鼠みたいな顔になっている院長に向き合う。


「私を鍛える時は段階を踏んで実戦してくれたのに、なんでジェードだと急に強敵ぶつけちゃうんですか」


 私の時は狼とか熊だったのに、なんでジェードの時は急に中ボスレベルの大蜘蛛をぶつけるんだ。おかしいと思わなかったのか?


「サクラは女の子だからなるべく怪我させないように気を遣ったけど、ジェードは男の子だから多少怪我しても大丈夫だと思って」

「限度がありますよ! 死ぬかもしれなかったのに!」


 私の怒りに院長は首を傾げる。


「あの蜘蛛たちは毒で麻痺して動けなくなるだけだよ。ジェードが失敗したらすぐに回収するつもりだったさ。ジェードには期待してるし。……女王陛下が逃げるなんて前代未聞の事件だったから、ジェードは悪くなくても組織内で不満を持たれててね。ボクがちゃんと罰を与えたって言えば、丸く収まるだろう?」


 そういえばアンバーも似たような事を言っていた。

 やっぱり組織の体質が問題なんだな。そういう仕事上のアクシデントに対して個人を罰する方向にいくのは良くない。問題を共有して改善する方向に行かないといけないのに。

 でもそれは私が前世の知識があるからそう考えられるだけだ。

 今までそれが当たり前だった院長だけを責めるのもまた違うのだろう。


「……すみません。院長も色々考えてたんですね。ジェードの事で熱くなりすぎました」

「いいよ。ボクが常識しらずなせいもあるから。……姉さんもね、サクラと同じように『王の影』を変えたいって言ってたんだ。今まで通りに運営できれば良いやる気のないボクと違って、姉さんは『王の影』の仕事に関して思うところがあったんだと思う。だから姉弟で協力して変えて行こうって言ってたのに……姉さんは……」


 院長は悲し気に遠くを見る。

 リリーさんは話を聞く限り、色々問題がある人に感じる。でも今までの常識を壊すような改革ができるのは『普通』の感性の人間には出来ないのかもしれない。

 院長は悲しみを振り払うかのように首を振って、私に笑顔を向ける。


「そろそろ殿下が返ってくるから、サクラは向こうで待ってて。ボクはこれを片づけてくるから」

「え、手伝いますよ」

「いいから、いいから」


 言いながらも院長は食べ終わったお皿やティーカップをささっとお盆に乗せている。手馴れている。執事みたいだ。

 そのまま私の背を押して執務室に戻すと、院長はフードを被って皿達を持ったまま出て行ってしまった。


 フードを被った怪しい人物なんて、あれはあれで目立ちそうなんだけど、人目に付かないのかな。前にアンバーが使ってた人目に入らなくする魔法でも使ってるんだろうか。


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