コスプレではない
ジェードに無理言って付いていくことに了承は得たけど、問題はどうやって行くかだよね。アイリスがいる王宮の最深部なんだから、近衛騎士も居そうだし。
「女王陛下は逃亡しようとしたってことで今は軟禁状態なんだ。周りの使用人も騎士も制限されてるから、僕と一緒にいれば大丈夫だと思う」
「それは好都合だけど……」
だからって私がメイド服を着ないとダメですか?
わかるよ、ジェードと一緒にいるならその方が自然だもんね。言い訳のしようもあるし。
でも前世の感覚からか、メイド服にはちょっと抵抗がある。
だが仕方ない、私が一緒に行くと言ったせいなので覚悟を決めて着替える。クラシカルタイプのロングスカートで助かった。モブ顔なので目立たず目的地まで行くことが出来るはず。
着替えるまで待っていてくれたジェードと合流すると、彼は薄く頬を染めて目線を逸らした。
「その……凄く、可愛い。使用人の服が似合ってるって言っても、嬉しくないかもしれないけど……」
「恥じらうジェードの方が可愛いよ。天使かな?」
嘘でも精いっぱい褒めてくれて、照れちゃうの可愛いね!
後、本当にジェードの方がモブ顔の私より可愛いから。幼馴染のそんな可愛い顔をもっと見たくて近寄ったけど距離を取られた。そんな生娘みたいに逃げなくても。
「可愛いって言われても嬉しくないよ。……ほら、行くよ」
背を向けて先を歩き出したジェードの後を慌てて追いかける。男の子に可愛いはダメだったか。
「ごめんって。ジェードは世間一般から見てカッコイイけど、私から見たら弟みたいでいつまでも可愛いって意味だからさ」
私の弁明にジェードは立ち止まって睨むように私を見た。
「いつかサクラに僕をカッコイイって言わせてみせるから」
「う、うん……?」
何か彼の心に火を付けてしまったらしい。
でも今の決意に満ちたジェードの顔の方が、さっきまでの死に悲観した顔よりよっぽど良い。
再び歩き出した彼の後を追いながら、ジェードの死亡フラグが折れることを祈った。