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出会い

 私が前世の記憶を取り戻してから10年が経った。

 前世の私はどうなって、なぜこの世界に転生したのかさっぱりわからないけど、10年も経てば割と諦めがついてくる。

 今の私は今年で15歳。この国では16歳で成人だ。

 成人したら孤児院から出て、一人で生活しなくてはいけない。

 頼れる身よりも伝手もないので、ここ10年日々勉強しながら将来に備えて真面目に過ごしてきた。

 前世の就職難を経験しているので、出来ることは努力して習得しておかないとね。

 特に事件が起こるわけでもなく、異世界転生お決まりのチート能力が目覚めるわけでもなく、孤児院の炊事洗濯など出来ることを手伝い、小さい子の面倒を見る。

 異世界転生しても前世と同じで私の日々は地味なものである。


   ***


「皆さん、準備出来ましたか? 出発しますよ~」


「は~い」


 施設の職員さんが声をかけ、孤児の皆がそれぞれ返事をする。

 この世界では冒険者や特殊な事情がない限り、週に一度教会に礼拝に行く習慣がある。

 孤児院でもそれは同じで、近くの教会まで皆で連れだって向かい、祈りを捧げる。

 前世でもそういう宗教はあったけど、私は日本人だったせいか今一神様とか信じられない。

 そもそも神様がいるなら、なんでこの世界に転生したのかちゃんと説明してほしい。

 そういう考えなせいか、私の祈りなんて周りに合わせたおざなりなものだ。

 そんな時間があるなら勉強してるか、魔法の練習をさせてほしい。

 ぼんやりそんなことを考えながら、教会に向かって皆の後をついていく。

 この路地を過ぎれば教会、そんな時路地裏から声が聞こえた。

 

「………大丈夫ですか、………さま」

「………ごめんなさい、足手まといに………」


 聞いたことないのに、聞き覚えのある声だった。

 自分でも意味が分からず、思わず足を止める。

 孤児院の皆は、そんな私に気づかず先に教会に入っていく。

 でも私はそれどころじゃない。

 

「聞き覚え? なんで? こんな声、聞いたこと……」


 ブツブツ呟きながら路地裏に聞き耳を立てる。

 でも聞けば聞くほど覚えがあるような―――


 あ。


「前世の有名声優の声だ!」


 何を言っているのかわからないと思うが、私もわからない。

 でも路地裏から聞こえる声は、前世でアニメやゲームで大活躍の人気声優の声そのものだったのだ。

 なんで路地裏からそんな声が?

 私は好奇心と転生の謎が解けるかもしれない興奮で、後先考えずに路地裏に足を踏み入れた。

 そのまま声のする方向に走って―――人とぶつかった。


「きゃっ」


 相手が可愛らしい悲鳴を上げて転ぶ。

 一方、体幹が微動だにしなかった私は相手に手を差し伸べた。


「うわっ。ごめんなさい、大丈夫ですか?」

「いえ、こちらも急いでいましたので……」


 相手が私の手を取る。

 その時に相手が被っていたマントのフードが外れて、顔が見えた。

 相手は同じ年頃の少女だった。日にあたったことがないような白い肌。絹のようにサラサラな薄紫の髪と大きな瞳。花びらを押し当てたような赤い唇。思わず守ってあげたくなるような可愛らしい顔。


「どうしましたか……?」


 呆然とその顔を見下ろす私に少女が可愛らしく首を傾げて尋ねる。

 その声にも顔にも覚えがある。

 そこで私はようやく気づいた。


 ……ここ、ゲームの世界じゃない?


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