シスターコンプレックス
「そういえば、リリーさんも妖精は見えていたんですか?」
ふと気になったのは院長と同じく雪の妖精の血を引くリリーさんの事だ。
クロッカス殿下の話だと色々出来たみたいだから、ひょっとしたら院長と同じく妖精が見えていたんじゃないかな。
そう思った私に院長は首を横に振る。
「姉さんもサクラと同じで妖精は見えていなかったよ」
「え? じゃあリリーさんが色々奇跡を起こしてたのって……」
「あれはほとんどボクがやってたんだよ。姉さんに頼まれてね。姉さんはサクラと同じで呪いの無効化は出来るけど、それ以外は出来ないから」
さらっと八百長がばらされてしまった。
それはそれで問題がある。
「じゃあ院長が感謝されるべきじゃないですか」
「ボクは別に目立ちたいわけじゃないし、姉さんは『女性の地位向上』っていう目的があったからね。普通の手段だとまず不可能だから、ボクも協力したんだよ」
怒る私を宥めるように、院長が優しく諭すように言う。
姉弟間で納得しているなら他人が口出しすることじゃないんだろうが、いいように利用されているように思えてなんだかモヤモヤする。
それが顔に出てしまったのだろう。院長が苦笑しながら私の頭を撫でてくる。
「殿下もグレイもわかってくれてたから、特に不満はないよ。わかる人にだけわかればいい」
「……院長って、一回心を許した人にめちゃくちゃ甘くなるタイプですよね。騙されないか心配ですよ」
私の言葉に院長は驚いたように目を丸くして撫でていた手を止める。それから嬉しそうに破顔した。
「ボクは騙されたりしないよ。サクラってば、殿下と同じこと言うんだから……」
「そういう人が一番騙されるんですよ」
私は心配していってるのに、院長は気にせず笑って私の頭を撫でている。
実年齢は30歳過ぎてるし最強クラスに強いのに、なんか精神面で危うい感じがするんだよな。院長は。
私の心配をよそに、院長はようやく私を撫でるのを止めて遠くを見る。
「ただ姉さんはボクの声が聞こえてたから、サクラと同じで大妖精クラスなら見えてたのかもしれないね」
「院長の声……?」
意味がわからずに首を傾げると、院長は視線を私に戻して懐かしそうに語り出す。
「ボクは生まれた時から妖精が見えてたから、人と話すより先に妖精と話す事を覚えちゃってさ。妖精の声って人間に聞こえないだろ。ボクの声も姉さん以外、周りに聞こえてなくてね」
「え……?」
それは大問題じゃないか?
「まさか周りに妖精の姿が見えない所か、ボクの声も聞こえてないと思わなくて。おかげで5歳くらいまでボクは喋れないし、何もない所を見て笑ってる頭のオカシイ子だと思われてたんだよね。将来『王の影』を背負うから大事にされてた姉さんと違って、いつも馬鹿にされるか、いないものとして扱われてたんだ」
笑顔でとんでもない過去を暴露された。
重い。重いって。そんなに笑顔で言う事じゃない。
「姉さんだけはボクに優しくしてくれたし、守ってくれた。だからボクも姉さん以外と話す気がなくなっちゃったんだ。姉さんはボクと喋れるから、『人見知りの弟が虐められてる』って思って守ってくれてたんだ。……それなのに、ボクが妖精が見えるしいろんな魔法が使えるってわかった途端に手のひらを反して姉さんと離れ離れにさせられたんだ。姉さんの役に立ちたいのは、幼い頃の恩返しでもあるんだよ」
そう言って、院長は再び私の頭を撫でる。
シスコン気味だと思ってたけど、シスコンになるのも納得の環境だったわ。