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帰路

 モグラと会話をしていたら、皇子がずんずんと私に近寄ってきた。


 こちらで勝手に話を進めてしまったから怒っているのか?


 戦々恐々としていたら、皇子はなぜか私の手を取った。

 私の片手は院長と繋がっているので、もう片方―――モグラを抱えていた方の腕だ。お陰でモグラは地面に落下していった。

 モグラは皇子には見えないから仕方ないな。

 足元で抗議するモグラを置いて、皇子は私を真剣に見つめる。


「ありがとう、サクラ。帝国の―――いや、大陸の危機を遠ざけてくれた事、感謝する。私では妖精たちと話にもならなかった。説得できずに……いや、それどころか大地震が起こることも考えずに封印を解いてしまうところだった」

「当然のことをしたまでです。むしろ大変なのは皇子の方ですよ。これからこの話を本国に持ち帰って話さないといけないんですから」

「確かに……。骨が折れるな」


 皇子がこれからの事を考えて、愁いを帯びた顔をする。

 なので私は更に言葉を続ける。


「ですが帝国は優秀な人材が大勢います。それこそ他国からもスカウトして勢力を拡大してきたのでしょう? 私は解決する知恵を持ちませんが、頭の良い人たちが沢山います。雇い主である帝国の危機ならば、優秀な人々が揃って知恵を絞るでしょう」


 ロータスの件を見るに、お金や権力で他国から雇った優秀な人材が多いはずだ。それも貴賤を問わずに人材を登用していると聞く。

 そう考えると、私が男だったら皇子に誘われた時に頷いていたかもしれない。でも残念ながら女なので、女性の福利厚生が手厚いウィスタリアの方が良い。リリーさんに感謝だ。

 皇子は私をじっと見て、初めて。柔らかい笑みを浮かべた。まるで心を許したかのような穏やかな笑みだ。


「そうだな。それに大陸の危機だ。同盟国であるウィスタリアも協力してくれるだろう?」

「私は一介の市民なのでお答えできません。女王陛下の判断となりますが、恐らくは」


 無論、心優しいアイリスなら喜んで協力してくれるだろう。

 ウィスタリアにも『恋革』の主人公であるアイリスと攻略対象達がいる。彼らもそれぞれ優秀だし、ラスボスのクロッカス殿下も知恵を貸してくれるはずだ。

 これがゲームの設定通りなら、彼らがいれば解決できるんじゃないだろうか。

 私が妹みたいに『恋革』に詳しかったら、この問題がゲーム通りなのか、どう解決すればいいのかわかっていたはずだ。こんなひと悶着を起こさせずに解決していただろう。


 やっぱり転生する人選をミスっているとしか思えない。


 それに、大ごとになったら私以外の転生者が干渉してくる可能性が高い。特定し、接触するチャンスである。

 陰で謎の行動を繰り返す転生者が何を企んでいるか知る事が出来るかもしれない。

 私が頭の中で今後のあれこれを考えていると、皇子が何かを決意したように頷いた。


「サクラ。やはりお前は私と共に―――」

「いいから、早く帰るよ」


 皇子の発言を遮って、院長が私の手から皇子の手を引き離す。

 皇子が何か抗議する前に、院長は皇子を空間の裂け目に放り込んだ。


 不敬すぎる。


 呆れて院長に目を向けたら、何故か院長の方が怒った顔をして私に非難の眼差しを向けていた。


「サクラってば、油断しちゃだめだよ。男は狼なんだかからね!」

「はぁ……」


 ただお礼を言われてただけなのに、何を言っているんだ。この人は。育ての親として、娘に男が近づくのが嫌なのかな。


「ロータスも早く来なよ。帰るんでしょ」

「あ、ああ……」


 ロータスは院長にびくびくしながら近づいてきた。

 本当はその反応が普通だよな。

 院長は近づいてきたロータスも遠慮なく首根っこを掴んで空間の裂け目に放り込んだ。扱いが雑。

 そして一仕事終えたように院長は私に晴れやかな笑みを見せた。


「帰ろう、サクラ。殿下もグレイも心配してるよ」

「はい!」


 こうして私は院長と手を繋いだまま空間の裂け目に飛び込んだ。


 ついでに言うとモグラは私が院長と話している間に、空いた方の腕に再び上ってきて元の場所をキープしていた。抱っこが気にいったのかな。


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