モグラが仲間になりたそうにこちらを見ている
いくら腕を掴んでいるとはいえ、院長の方が強いので私なんて簡単に振り払える。
私は祈るように院長の腕をぎゅっと握ると、彼は根負けしたように溜息をついた。
「サクラがそこまで言うなら良いよ。まぁ、土の大妖精が限界になったらボクは解除しちゃうけどね。それでもいい?」
「いえ、半分私のせいなので、もしヤバくなったら私が解除します」
土の大妖精の封印を解除したのは私だしね。
事故みたいなものとはいえ、責任は取らないと。
それを聞いて院長は瞬きを繰り返した後、ふっと柔らかく微笑んだ。
「他の人たちはボクに何でもかんでもやってほしがるのに、サクラは違うんだね。そういうところが好きだよ」
「私もいつでも守ってくれる院長が好きですよ」
私は当然のことを言ったまでなのに、院長は随分と嬉しそうな顔をする。
院長は何でもできるから、今まで色々押し付けられてきたんだろうな。今回だって帝国とのやり取りで忙しいだろうに、異空間を渡るなんて無理をして助けに来てくれたのだ。
帰ったらちゃんとお礼を言って労わろう。
そんな事を考えていたら、いつの間にか院長の腕を掴んでいた手を解かれて、院長と手を繋ぐ形になっていた。
こうしていると私が幼女の頃みたいだ。ちょっと懐かしい。
院長も懐かしいのか、にこにこしている。
「話もまとまったし帰ろうか」
院長の言葉に、繋がれた手と反対の手に抱えられているモグラが不満そうな顔をする。
「結局封印を解かないのか。……我はどうすれば良いのだ」
なんだかしょぼくれて項垂れ始めてたので、思わず声をかける。
「一緒に来れば? こんなところにいるよりいいでしょ」
「そうだよ。妖精にしてみたら『ほんの少し』我慢すれば封印は解除されるんだからさ。その間、今の人間社会を勉強しなよ。昔と大分変ってると思うからさ」
院長が私の言葉に続ける。
「……確かに。本体も力も封印され、ここも『サルファー』の子孫に我の力が宿った水晶を採掘する場にされていたからな。わずかな抵抗として人の姿を形作り、水晶を持っていくのを邪魔していたのだが、それもいつしか『試練』と言われて挑もうとしてくる始末……。ここにはもう居たくはない」
そういえば院長も、この異様に育った水晶は土の大妖精の力の影響を受けていると言っていた。
ゲームでもこのダンジョンで土の大妖精に認められた後にアイリスと皇子は水晶を貰ってたな。
水晶こそが土の大妖精に認められた証だとして、ゲームでダンジョンをクリアした皇子は帝国を継ぐに相応しい人物だと帝国内で認められたはずだ。
なるほど。それも誤った伝わり方をした伝承だったというわけか。
ゲームではアイリスと皇子のラブラブ説得バトルによって、土の大妖精もこんなにこじれずに改心したのだろう。私は戦闘しか関与してないから、詳しくは知らないんだけど。
ダンジョン探索とかなら得意なんだけどね。ストーリーが進む時とか好感度に関与する選択肢は妹に投げてた。
なんにせよ、流石にモグラが可哀想になってきたので、ぬいぐるみのように抱っこする形で抱き寄せる。
「私が無理言ったんだし、わからないことがあったら聞いてよ。王都くらいだったら案内するから」
「そうか。ではお前と暫くウィスタリアの王都を見て回ろう。暫く世話になる」
モグラは速攻で頷いてきた。
ちょっと早まったかな……。