他人のフラグも回避したい
私の思い出した記憶が間違いでないか確かめるためにはジェードに会う必要がある。とりあえず仕事終わりにジェードに案内された隠し部屋を覗いてみた。が、誰もいない。ここに来れば会いに行くと言われたんだけども。
「探しに行った方がいいかな……」
「その必要はないよ」
「おわっ!?」
いきなり後ろからジェードに話しかけられて驚く。うっかり裏拳を叩き込みそうになったけど寸でで耐えた。
「驚かさないでよ。気配がなかった……」
「いきなり殴られそうになって驚いたのは僕の方なんだけど」
「それはごめん」
だからそんな不満そうな顔しないでほしい。とっさに手が出るのは、いつでも身を守れるようにという院長の教育の賜物である。
「それよりジェード。ちょっと頼みたいことがあって」
「何?」
「女王陛下が使ってるトイレが見てみたいんだけど」
「何で?」
そんな奇怪な物を見る目で見ないでほしい。私も変な事言ってる自覚はある。でも思い出した記憶だとそこなんだよ。だけど前世の記憶とかゲームとか、そんなことジェードに言える訳がないので言い訳を用意しておいた。
「ジェードには黙ってたんだけど、実は女王陛下と近衛騎士っぽい人が町にいるの見かけてさ」
「え」
「隠し通路から逃げたのって女王陛下でしょ? 本当は私も口留めされてるし、言ったのバレたら命はないけどジェードは信用してるから言うよ。その時に二人が話してた内容がジェードの探してる隠し通路のこと……だったような気がして……。確信はないんだけど」
アイリスと会ったのは本当だ。『王の影』として調べればわかるだろう。隠し通路の事は嘘だけど。真実に混ぜると嘘も信憑性増すよね。
私が今一ゲームの記憶に自信ないからこんな言い方しか出来なくて申し訳ない。これが違ったらまた頑張って思い出すから。
ジェードは疑うか信じるか判断に迷う顔をしている。
そりゃそうだろうな。
久しぶりに再会した幼馴染なんて信用していいかわかんないよね。この前は再会した衝撃と勢いで色々言ってくれたのかも知れないけど、今回は違う。女王陛下が使ってるトイレとか、私室に近いだろうし普通私なんかが近づけない場所だ。
「……僕が一人で確かめてくるよ。サクラには元々関係ないことだ」
ジェードがそう答えるのは普通だ。私もジェードの立場だったらそう言うだろう。
だけど。
「ジェード一人で言っちゃだめだよ。私も行く」
一人で行かせたらダメな予感がした。そう、これが乙女ゲームならジェード一人で行かせたらバッドエンドになるような、そんな予感が。
現実とゲームをごっちゃにしちゃダメなんだけど、今回だけだ。違ったならそれでいい。何もわからずにジェードと会えなくなったら、それこそ後悔する。
私の我儘にジェードは困った顔をした。
「サクラ……」
「凄く無茶言ってるのはわかってる。大人しくしてるし、なんなら武器でも魔法でも他の人に見えないように私に向けててもいいから……お願い」
ジェードの手を取って頭を下げる。
暫く沈黙が下りる。やがて聞こえたのは溜息だった。
「……わかった。どうせ死ぬのを待ってるだけだったし」
「ありがとう、ジェード!」
「それにサクラから僕への初めての我儘を聞くのも悪くないかなって」
「昔は遊んだり勉強教えたり、お願いされてたのは私の方だったからね」
懐かしいなぁ。ジェードは年下だったし、私と歳も近かったから色々甘えてきてくれたんだけど、あっという間に子どもっぽい思考がなくなって皆の世話をするお兄さんになってしまった。
「……。サクラにとっては、僕はその頃のままなんだね」
「うん! ジェードがグレようが何しようが、私の意識は変わらないから安心して!」
私の発言にジェードはなぜか嬉しいのか悲しいのかわからない複雑な顔をしている。
なんで?
思春期の男の子の思考は複雑怪奇だ。