大事なのは結局見た目
「ほ、本物の……雪の妖精……?」
ロータスが呆然と呟くの、院長が鼻で笑う。
「見ればわかるでしょ」
院長の見た目でそんなこと言われたら、納得するしかないんだよな。実際は違うんだけど。
「この異空間にどうやって入ってきたんだ!?」
院長が皇子とロータスを目だけで威圧する中、モグラが叫ぶ。
院長は面倒そうに私に抱えられたモグラに目を向けた。
「ボクは何でもできるからね。お前が封印されてた宝石を手掛かりに、サクラの魔力を辿って空間を繋げただけだよ。異空間ともなると探すにも移動するにも消費魔力が多くて、殿……人に魔力を借りなきゃならなかったけど」
今、殿下って言いかけた?
空間を割いた禍々しいエフェクトはクロッカス殿下の闇属性の魔力か。
ラスボスだもんね。魔力が有り余ってるはずだ。
院長と殿下が揃うと大体何でもできるって言ってたけど、本当なんだな。
なんにせよ、院長が来てくれたおかげで肩の力が抜けた。
が、私の手の中のモグラの機嫌は急降下していく。
「何でも出来る? どこにも居場所のない無能力の妖精が偉そうに」
「は? 誰と間違えてるの? 長年閉じ込められて『目』まで悪くなっちゃた? それとも悪くなったのは頭かな?」
モグラの中傷を院長が見下した笑みで煽り返す。
院長の言動が頭に来たのか、モグラは私の手の中でジタバタと暴れ出した。
「そのクソ生意気な言動は人間交じりの息子の方か。無能力は間抜けな泣き虫だったからな」
「違います~。やっぱり妖精といえどボケちゃうのかな。おじいちゃん、ご飯はもう食べたでしょ~?」
めちゃくちゃ煽るじゃん。
院長にしたらモグラに突然ディスられたのもムカついてるし、恐らく先祖の『雪の妖精』と間違えられたのが勘に触ったのだろう。
『雪の妖精』も私や院長と同じく属性魔法が使えない妖精だったのだろう。『無能力』を隠すために『雪の妖精』を名乗っていたのかもしれない。
モグラは私たちの先祖の『雪の妖精』を知っていてなお院長と見間違えるくらいだ。院長は相当ご先祖様に似てるんだろうな。
一方、院長に煽られたモグラは歯をむき出しにして唸っている。
正直、モグラを手に持ってるのが怖い。爪で引っ掻かれただけでも痛そうだ。
モグラが逃げないようにしっかり捕まえつつ、私は院長を見上げた。
「院長、力が封印されてるとはいえ、大妖精にそんな言い方して大丈夫なんですか?」
「大丈夫。そんなの片手で握りつぶせるよ。例え力の封印を解いても、消費した分が戻ってくるわけじゃない。魔力が回復するまで百年単位で時間がかかるんじゃないかな」
院長がモグラを見下ろしたまま淡々と告げる。モグラは反論せずに、悔し気に黙っている。
今まで地震を抑えてる分、魔力が持続的に消費されてたって事か。
そりゃモグラも封印を解きたがるわけだ。このままだと、自分の魔力が勝手に浪費されていくんだから。しかもサルファーがわざわざ土の大妖精を頼ったくらいだ。大妖精じゃないと賄えないくらいの魔力が使われてるんだろう。
ここでようやくサルファーの皇子が口を挟んできた。
「待、待て。それほどまでに魔力を消費して、本当に地震を抑えるために封印されているのか? 土の大妖精が悪さをしたから封印されたのではなく?」
「そうだよ。見ればわかるでしょ。―――ああ、わからないのか」
院長は皇子の表情を見て、軽く肩を竦める。院長は地震のメカニズムとか知らないはずなのに、モグラと封印を見ただけで仕組みを理解したんだろう。まさしく天才だ。
そうして院長は改めてサルファーの皇子を見つめる。
「じゃあ何? サクラが不敬を覚悟で帝国に地震を起こさないために進言してくれてたのに、賢いサルファー皇子ともあろう者が、無視して封印を解こうとしてたの? ボクはウィスタリアを守る者だけど、そんなんじゃサルファーの未来が心配だなぁ」
皮肉たっぷりに皇子様を見下す院長。
院長の方が不敬だよ。
しかし見た目が完璧な妖精であり、空間を割いて登場なんてとんでもないことをしでかした人物に食って掛かるような真似を出来る人は早々いない。
機嫌を損ねたら帰れなくなるかもしれないし。
「そうか……そいつの言う事は本当だったのか……」
ロータスが呆然と呟く。
私が言っても信用されなかったのに『雪の妖精』の見た目を持つ院長が言うと信用するんだ。
やっぱり見た目って重要なんだな。