とったどー!
こんなフィールドでは近接攻撃のあるロータスはいいとして、魔法攻撃が主の皇子に攻撃させるわけにはいかない。
先手で私が土の大妖精に飛び込んで力とスピードの限りの右ストレートを叩きつける。
が、軽く手のひらで受け止められた。ダメージを食らっている様子はない。
続けてロータスが炎を纏わせた剣を振りかぶるが、それも避けることなく指二本でいなす。ロータスは自分が突っ込んだ勢いのまま、後方に吹っ飛ばされた。
土の大妖精は余裕の表情だ。どうやっていたぶってやろうか考えている顔でもある。
本気を出してない今しか攻略手段はない。
私はロータスの近くまで飛びのき、体勢を立て直したロータスに話しかける。
「ロータス。少しの間だけ大妖精を引き付けててくれる?」
「何か思いついたのか?」
ロータスの疑問に軽く頷く。
「無駄な抵抗はよせ。怪我をさせたくないから下がっていろ」
土の大妖精が私に忠告する。
私は唇を噛んで戦闘に巻き込まれないように下がる―――フリをする。
今ので確信した。目の前のダンディなイケオジは本体じゃない。
洞窟内は声が反響してわかりにくいが、目の前のイケオジから声が聞こえなかった。
別の場所から話す声が聞こえるのだ。
それに殴った時の感触が明らかに人間の物と違った。中身のない人形を殴ったような質感だった。
これは『妖精だから人間と中身が違う』と言われたらそれまでだけど、声と総合して考えると目の前のイケオジはただの張りぼてである可能性が高い。
そうすると、どこかに隠れているはずなのだ。―――手のひらサイズのモグラが。
宝石に封じられてたのがモグラなら、あれが本体だろう。先に正体を見ておいて良かった。
こそこそと皇子の隣に戻った私が皇子に耳打ちすると、皇子は地面に対して振動が起きないように最小限の魔法を撃った。
その影響で、ロータスや私たちの周りに土埃が舞う。
「無駄な事を……」
土埃の中から飛び出すロータスを土の大妖精がいなす。
しかし、それが本命ではない。
私が横に飛びのいて、声の主の場所まで突撃するのを気づかせないためだ。
勿論、正面から行ったら逃げられるので遠回りをする。
モグラのサイズでこの水晶の満ちるフィールドに隠れられたら辛い。
しかし水晶が視界の邪魔なのはモグラも一緒だ。
なので私は重力に逆らい、壁や天井に生えている水晶を伝って声の場所を目指す。
私が足を乗せると、水晶はすぐにぐらついて地面に落ちようとする。でも落ちる前に水晶を蹴って別の水晶に飛び乗ればいいだけだ。
ロータスや皇子が戦っている場所から遠回りして向かっているので、二人に水晶が落ちることはない。
水晶が落ちる音でモグラに気づかれるだろうって? 落ちる前にモグラに辿りつけばいいんだよ。
脚力に全集中して水晶を飛渡り、最初の水晶が地面に落ちる前に声の主の場所に辿り着くと、そこにはやはり一匹のモグラがいた。
「なっ!?」
目の前のモグラからダンディな声が漏れる。
私は容赦なくモグラを両手で捕まえた。
「ぐぇっ」
ちょっと力を込めすぎてモグラから潰れたカエルみたいな声が聞こえたのはご愛敬だ。
モグラの隠れていた水晶から飛びのいて地面に降り立つ。
慌てていたせいで、モグラを両手で掲げるようにして地面に着地してしまった。
まるで高いところからライオンの子供を見せびらかす猿みたいな格好だ。
続いて周りからは水晶が砕け散る音が聞こえてくる。
頑張ったのに、何とも締まらないな。