主人公気質
「そもそもロータスがそんなに追い詰められてたのは私のせいじゃない? 感謝しなくて良いよ」
チュートリアルを邪魔したのを皮切りに王城に潜入したのを邪魔したり、ロータスの言動を批判したりと狼藉を繰り返した自覚はある。
お母さんの持論で救われたならいいけど、自分で貶めておいて自分で救ったように見せかけるのはとんでもないマッチポンプだ。
しかしロータスは首を横に振った。
「お前に言われたことは、いつか自覚しなければならなかった事だ。それが遅いか早いかの差だっただけのこと。あのままアイリスさまの傍に居れば、いつかアイリスさまの足を引っ張ることになりかねなかった。取り返しがつかない失敗をする前に、お前に会えて良かったと思う」
お前はゲームの主人公か?
余りに真っ直ぐな心意気と眼差しに、現代社会で汚れた大人の私は目が潰れかけた。
己の過ちを顧みて正しい道を目指せる、漫画の中にしか存在しなさそうな主人公気質である。
しかもそれを、批判してたり敵対してきた人間を目の前に本気で感謝しながら言える人物がどれだけいるだろうか。
少なくとも私は無理だ。
しかしこのまま感謝されるのはとても心苦しいので、一応苦言を呈しておく。
「そもそも……私と初めて会った時の事は取り返しのつかない失敗じゃない?」
サルファーの皇子がいるので公言出来ないが、アイリスを連れて逃げようとしたのがバレて謹慎させられたり近衛騎士団を首になったりしているのだ。
それは騎士としても貴族としてもかなり不名誉で、取り返しがつかない事じゃないだろうか。
「初めて会った時、俺が失敗したのは己の未熟のせいだ。それにアイリスさまがやり直す機会を下さった。まだ自分の努力で取り返しはつく範囲だ。これから俺自身がアイリスさまに報いればいい」
ロータスはどこまでも真っ直ぐだ。
そこまで言うならもういいか。ロータスの性格上、私を逆恨みして将来地位を得てから復讐するなんてしなさそうだし。
ダンジョンを出たら私と関わることはないだろう。
努力して立派な騎士になってくれ。
私がそう結論付けている中、横で私たちのやり取りを見ていた皇子が顎に手を当ててしきりに頷いている。
「ここまでの忠臣は中々いないぞ。素晴らしい精神力だ。やはり、ロータスも欲しいな」
諦めが悪いな。
私が半分呆れていると、ロータスはすっと頭を下げた。
「皇子。話を聞いていたと思うのですが、そもそも俺……私は弱いのです。強さで言うとその女性に勝ち目すらありません。私が帝国に行っても役には立たないでしょう」
「だがお前は心が強い。弱さを自覚するのも強さだ。弱いと思うなら強くなればいい。お前には強靭な精神力があり、強くなる才能もある。私にはわかるぞ」
サルファーの皇子は目利きがいいな。
攻略対象なので、レベルを上げればそれはもう強くなる。
ロータスは皇子の言葉を噛みしめるように聞いた後、私の方へ向き直る。
「お前、名前は?」
「え? ああ、サクラだよ」
そう言えばロータスにも皇子にも名乗ってなかった。
ロータスと会うといつも名乗るどころじゃない騒ぎに巻き込まれていたので忘れていた。
「サクラ……俺に修行を付けてくれ」
「えっ」
「この試練を乗り越えるには、足手まといは少ない方がいいだろう? なんでもいい。俺は強くなりたいんだ」
そう言って頭を下げるロータス。
―――そう言われると断れない。
なんせこのダンジョンは終盤のステージなので、私がフォローするにも限りがある。それにサルファーの皇子もいるのだ。帝国とウィスタリアの仲のためにも怪我をさせるわけにはいかない。
そうなるとロータスには自力で敵をさばけるくらいになってもらうのが理想だ。
さっきのワイバーンは運が良かったし、雑魚敵だから何とかなっただけだ。
的は多い方がいい。私と皇子の怪我をする確率が減る。
「いいよ。私で良ければ」
「ありがとう! 恩に着る」
打算込みの私の返事にロータスは頭を上げて顔を輝かせる。
本人が強くなりたいって言ってるんだからいいだろう。
せっかくのダンジョンだ。レベル上げしながら進もう。
無事脱出できれば相当強くなってるだろう。