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ウィスタリアの騎士

 こいつ、まだ諦めてなかったのか。


 ここで断って皇子の機嫌を損ねると、ダンジョン攻略がしにくくなるかもしれない。でも言質を取ると本当に帝国に連れていかれかねない。皇子の機嫌を損ねないようにしつつ、断るには―――。


「申し訳ありません。以前にも言いましたが、私には思い人がいるのでウィスタリアを離れるつもりはありません」


 この手に限る。

 しかし今回は皇子も折れなかった。


「お前の噂を色々聞いたが、ウィスタリアでは王侯貴族と庶民のお前では結ばれるのは厳しかろう? 帝国は実力主義だ。反対する者は実力で黙らせれば良い。それに私の方が望みの物を与えてやれるぞ」


 噂ってなんの噂だ。ひょっとしてクロッカス殿下の愛人とか、フラックスを誑かしてるとかその類の噂か?


 過去の行いが現在の自分の首を絞めてくる。

 でも帝国には行きたくない。

 実力主義で切磋琢磨するほどやる気がないし、皇子の近くにいると暗殺の危険が高まる。今の職場だって満足してるし、院長の計らいがなければそもそも入れなかったのだから、その分頑張りたい。それにせっかくクロッカス殿下と話し合う機会も設けてもらえるようになったのだから、もう少しあの人の事を知りたい。ジェードの事も心配だし、知り合ったばかりだけどフラックスやフォーサイシア、ネイビーの事もまだ今後が不安だ。

 ウィスタリアを離れたくない理由は、少し考えるだけでこんなにたくさんある。

 だから私は一心にサルファーの皇子を見つめる。


「両想いでなくて、その人の幸せを守りたいと思うのが愛ではないでしょうか。愛は見返りを求めないものです。報われなくても自分が満足なら、物もお金も必要ありません。私は私の意思でウィスタリアに居たいのです」


 嘘だ。物もお金も必要だ。本当なのはウィスタリアに居たい事だけである。

 なんでこんな嘘がスラスラ出てくるかと言えば、前世の母の持論だからである。

 ちょっと夢見がちなところがある母だった。

 やっぱり乙女ゲームに転生するなら母とか妹とか、乙女思考が搭載されてる方が良かったと思う。

 しかし皇子は私の話を鼻で笑った。


「馬鹿な事を。愛なぞいくらでも買えるものだ。しかし私にこんなにも堂々と意見する女がいるとは……。ますますお前を連れ帰りたくなったぞ。ふっ、面白い女だ」


 おもしれ―女構文、リアルで言う人いるんだ……。


 驚いてちょっと固まっていたら、なぜか皇子と私の間にロータスが割り込んできた。


「皇子。申し訳ありませんが、本人の意思と関係なく無理やり連れて行くのは犯罪です。王族だろうと許される行為ではありません。私はウィスタリアの騎士として、国民を守る義務があります」


 おお、助太刀してくれるのは助かるけど、急にどうした?


 今まで話を聞いていただけだったロータスの参戦に、私も皇子も面食らう。

 しかし皇子はすぐさま反論してきた。


「お前は入団試験に失敗したのだろう? ウィスタリアの騎士ではないぞ」

「それは俺……私が弱かったからです。私はアイリスさまを守るため、そして国と民を守るために騎士を志しました。しかしアイリスさまのお心を知って……心が折れかけていました。迷いがあったのです。貴方もそれに付け込もうとした」


 ロータスも皇子を真っ直ぐに見つめている。


「しかし愛は見返りを求めないという話を聞いて、目が覚めたような心地になりました。私はアイリスさまもウィスタリアも民も守りたい。その心は変わらない。私は強くなって、再びウィスタリアの騎士になります。私も帝国には行きません」


 そう宣言すると、ロータスは私の方を振り返る。

 吹っ切れたような笑顔だった。


「お前に教えられた。ありがとう」


 ごめん。私の持論じゃなくてお母さんの持論なんだ。


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