ダンディモグラ
『宝石って割れるんだ』とか『私のせいじゃありません』という思いが頭の中を駆け巡ったが、事態はそれを更に悪化させていく。
宝石の中からモグラが出てきたのだ。
「は???」
余りの事に思考が停止してしまった。
モグラは宝石より一回り小さい。私の手のひらにちんまりと乗っているが、重さを感じないレベルだ。
お前は桃太郎か? いや、宝石から出てきたから宝石太郎???
パニックになりながらも手の上のモグラを見つめていると、彼(?)は言い争う皇子とロータスを見つめた。
『おのれ。よくも長い間、我を封じてくれたな。許さんぞ』
「喋った!?」
しかもやたらダンディで渋めのボイスだ。モグラなのに。でもこの癖のある声、どことなく聞いたことあるような……。
ここで私が『前世の声優』という結論に辿り着く前に、私の手の中にいるモグラは行動を起こした。
二足で立ち上がり、両手を宙に広げる。するとモグラの頭上に真っ暗な空間の亀裂が現れた。
あ! これ知ってる! イベントで異空間に吸い込まれる奴!
ちなみにモグラがその異空間への扉を開けたため、モグラを手にしていた私はその真正面にいることになる。
つまり、真っ先に私が吸い込まれた。
「サクラ!」
アンバーがいの一番に反応して吸い込まれる私に手を伸ばす。
その顔には珍しく焦りが見える。
私も咄嗟にアンバーに手を伸ばす。
『お前は来るな!』
脳に響くダンディな声と共に、アンバーの腕が弾かれる。
私はそのまま暗闇に吸い込まれ―――最後に見たのは空間に吸い込まれる皇子とロータスの姿だった。
* * *
目が覚めるとそこはまるでモグラが掘ったかのような洞窟だった。
見た限りでは一直線に通路が続いている。
周りにはサルファーの皇子とロータスが倒れている。見たところ、怪我はないようだ。
参ったな。まさかダンジョン攻略に巻き込まれるなんて。
この場所はゲームで見覚えがある。
確か帝国ルートで『土の大妖精に認めてもらって帝国での地位を確かにする』内容で、ゲームでも終盤付近に訪れる場所のはずだ。
確か、『土の大妖精』の居所に行くことのできる宝石を掲げて『サルファーの皇族』が呪文を唱えると転移することが出来る仕組みだったはずだ。
するとあの宝石が『土の大妖精』の居所に繋がる宝石だったのか。
そんな大事な物を人に渡そうとするなよ。
しかし実際は皇子が呪文を唱えていないし、宝石が割れて中から謎のモグラが出てきたわけで……。
そこでふと思い立つ。
『転移』の魔法なんて相応の魔力が必要だ。しかも異空間とつなげるなんてそれこそ莫大な量だろう。
つまりあのモグラはその『転移』の魔法のために、宝石の中に閉じ込められていた『燃料』だったんじゃないだろうか。
そしてその封印を、私が持っているらしい『浄化』の力でうっかり解いてしまったのだとしたら……?
そうすると、私が触れた途端に宝石が割れたのも説明が付く。
付くけど、いや、うん、不可抗力だから、ロータス達には黙っておこう。
ただの推測だし。合ってるかもわからないから。
そもそも『浄化』って良い方に働きそうな力のはずなのに、なんで私のは悪い方に働くんだ。
『恋革』は最後まで私を逃がしてくれないみたいだ。