サボれない国民性
「そう言う事だから、帝国の人間が帰るまでは仕事は控えて大人しくしててほしい」
グレイ隊長が天才二人にドン引きしたまま私に声をかける。
確かに私のせいで国が一つ消し飛ぶのは避けたい。
しかし、だ。
「いや、流石に仕事をサボるのは……殿下がこんなに忙しくしてるのに……」
殿下もやつれたけど、院長も隠しきれない隈が見える。
過労死しそうな二人がいる中でサボれない。
私のように目立たないモブなら、気配を消して帝国の人間に気を付けていれば大丈夫じゃないかな。
ゲームは終わったようなものだし、問題が起こるとは考えづらい。
グレイ隊長は腕を組んで私を見下ろす。
「嬢ちゃん、真面目すぎるぞ」
前世が日本人だからね。例え地震があろうと出社しなければならない国民性なのだ。
しかしそれは言っても理解されないだろうから、私は別の理由を述べる。
「いくら帝国の皇子でもウィスタリア国内ではそんな無茶な事出来ないでしょう。今回は暗殺を助けられた側ですし。せいぜい宝石やら豪華な生活やらで釣ってくるだけだと思います。私はそんなので帝国に行ったりしませんよ」
「そう、なんだけど……」
院長は相変わらず心配そうだ。
リリーさんの事があるから、心配が尽きないんだろう。
私は安心させるように努めて明るく笑顔を向けた。
「大丈夫ですよ。それにこんな忙しい時に職場に居なかったら、後でアンバーに嫌味を言われそうですし」
私の言葉に何故か大人三人の動きが止まった。
グレイ隊長が信じられないようなものを見る目で院長の方を向いた。
「お前、まだ言ってないのか」
「いや……だって……その……」
何故かしどろもどろになる院長。
クロッカス殿下も額を指で押さえた後にゆっくりと顔を上げる。
何故か知らないけど怒ってらっしゃる様子だ。
「いい加減にしろ。ア―――」
「ああああああ! ボク、用事を思い出したから行ってきますね!!」
院長はそう言うと、フードを被りながら窓まで走り、開け放った窓から飛び降りた。
その間、1秒足らずの無駄な早業である。
ここって城の最上階に近いんだけど飛び降りて大丈夫なのかな。大丈夫そうだな、院長だし。
ポカンと院長が出て行った窓を見つめていると、殿下が溜息をつきながら私に笑顔を向けた。
「騒がしくてすまないな。今日はもう遅い。また今度、話そう」
「はい」
私は大人しく頷いた。
せめて帝国が帰ってから話そう。このまま何もなければ殿下も忙しさが緩和されるだろう。
「気を付けて帰るようにな。グレイ、サクラの共を―――」
「いえ、私が行きます」
殿下の言葉を遮って、控えの間からアンバーが扉を開けて出てきた。
院長がいるからずっとそこにいたのか? 大変だなぁ。
何故か殿下とグレイ隊長が呆れている中、それを無視してアンバーが私に近づく。
「さぁ、行きましょう。サクラさん。ついでに私に対して誤解があるようなので、そこも訂正してあげます」
あ、さっきの発言聞かれてたのか。
でもアンバーの性格が悪いのは確定事項だし、今更訂正効かないよ。