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三者面談

「サクラは紅茶でいい?」

「あ、はい」


 院長の言葉に反射で頷いてしまった。

 すると間髪入れずに院長から紅茶がサーブされる。


 今、空中からカップが出現したように見えたんだけど、気のせいか?


 困惑する私の横で院長はもう一つカップを手にしている。


「殿下もいかがですか?」

「いただこう」


 院長は手慣れた様子でクロッカス殿下にサーブする。

 そこでようやく気が付いたが、いつもならいるはずのアンバーの姿が見当たらない。

 アンバーの代わりにクロッカス殿下の横に控えているのはグレイ隊長だ。

 院長がいるから帰らされたんだろうか。『王の影』では院長が一番偉いはずだし。

 アンバーに同情していると、院長が話しかけてきた。


「サクラ。殿下に話したいことがあるんでしょ? 殿下は優しいから何を言っても大丈夫だよ。ボクなんて、殿下を殺そうとしたけど許してくれたから」

「それもどうなんですか?」


 笑顔でとんでもないことを宣う院長に思わず引いた眼を向ける。一方のクロッカス殿下は苦笑したまま紅茶に手をつけた。


「初対面の時はリリーの件で誤解があっただけだ。それ以降も何度も殺されそうになったが、今生きているからな。問題ない」

「問題しかないんですよ」


 そう言うグレイ隊長なんて、ずっと剣に手を置いてる状態である。


 義理の兄弟同士、仲が良いと思ってたんだけど私の勘違いだったのか?


 それに私は殿下に言いたいことを言う前に院長にも言いたい事がある。


「そもそも院長が説明してくれたら良かったじゃないですか。孤児院にいる間はともかくとして、殿下に初めて会う前とか、タイミングはあったじゃないですか」


 孤児院に居た時に説明できなかったのはわかる。

 なんせただの子どもだ。そんな私に親の事を説明して、うっかり私自身が『殿下の娘』だと口外したら大変だ。実際は私の中身が大人だからそんなことはしないけど、子どもに明かすにはリスクが高すぎる。

 だから院長が黙ってたのは理解できる。が、問題はその後である。

 殿下に会う時に最初からついてきて、説明してくれれば良かったのに。

 責める私に院長は困った顔をする。


「ボクが説明しても悪い噂の多い殿下の事をサクラは受け入れられなかったでしょ。ちゃんと殿下の人となりを知ってから説明しようと思ってたんだ」


 確かに殿下は『親友の嫁を寝とった』とか『10年前の反乱を裏で操ってた』とか色々悪い噂が絶えない人だった。

 最初に言われても受け入れられないし、同じように優しくし接してくれても『騙されてるんじゃないか』って気持ちが先行してしまうかもしれない。

 私だって院長の言葉があっても、フラックスの事件があるまで疑っていた。


「それに殿下だって自分からは言わないし、ボクからも言うなって命令されてたんだよ。この人、頑固だから一度決めたら曲げなくてさ。でも、自分の娘が近くに居たら心境だって変化すると思って。ボクだって色々気を回してるの」

「だから私の就職先を殿下の下に斡旋したんですね」

「それも説明しようと思ってたんだけど、殿下が先に言っちゃたんだもん。それはゴメンね」


 テヘペロと言わんばかりの顔で謝ってくる院長。

 反省してないだろ。

 コネなしじゃ就職できない高給取りの仕事にありつけたからいいんだけど。

 殿下だって娘が近くに居たらどうしたって気になるだろう。接触する理由なんて、いくらでもつけられる。

 私と殿下、お互いの心境の変化を狙っての采配だったんだな。

 更に院長は肩を竦めて言葉を続ける。


「ボクだってサクラにやりたい事とか、夢があればそっちを優先してたよ? でもサクラってば将来の夢を聞いても『安定して給料が良いところですかね』って子どもらしくないことばかり言うし……。殿下の所なら要望も叶えられていいかなって」

「嬢ちゃん……本当に子どもか……?」


 グレイ隊長から疑いの眼差しを向けられてしまったので、曖昧に笑って誤魔化しておく。


 精神年齢は33歳だからさ。せっかくの剣と魔法の世界なのに夢がなくてすまない。


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