攻略対象と対立するルート
グレイ隊長の後にフォーサイシアの交代が来た事もあり、救護室にいた面々はそれぞれ解散した。
フォーサイシアはいつでも来てくださいと言っていたけど、用もないのに仕事場にちょくちょく遊びに行くわけには行かない。
今度、話を聞いてくれたお礼に菓子折りでも持ってネイビーのいる教会に遊びに行こう。幼女に会って癒されたいし。
ロータスは無言のまま、ふらつく足取りで救護室から去っていった。
哀愁漂う背中を見つめながら、私は思わず呟いた。
「ロータス、大丈夫かな......」
「なんだ。色々言った割りに心配してんだな」
グレイ隊長が意外そうに見つめる中、私は頷いた。
「はい。また何かやらかさないか心配です。もう巻き込まれたくないので」
「そっちか......」
出来れば帝国の人達が帰るまで、大人しくしていてほしい。帝国ルートが平和に終わりそうなんだよ。
問題は帝国ルートのルートボスが『今までの攻略対象』である事だ。
隠しルートのジェードやネイビーは出て来ないが、基本3ルートのロータス・フラックス・フォーサイシアと対立しないといけないルートなのである。
その三人もラスボスのクロッカス殿下も、サルファー帝国からウィスタリア王国を守るためにサルファーの皇子を狙う。
その全員からサルファー皇子を守って戦ったり、説得したりする一番難易度の高いルートなのだ。
サルファー帝国と無事に和平が続いても、うっかり帝国ルートの余波で攻略対象が帝国に問題を起こしたら困る。
フラックスとフォーサイシアは人となりを知っているから大丈夫だと言えるけど、ロータスは読めない。
今まではアイリスに惚れてるからアイリスが困る事はしないだろうと思っていたが、フラれたせいでそれもわからない。
ロータスの不幸は己の行いのせいでもあるけど、チュートリアルで私が邪魔をしたせいでもある。
このままロータスが闇堕ちしたら流石に可哀想だし、さっきので己の行いを反省してくれると信じて、私はグレイ隊長にあるお願いをする事にした。
「ロータスの傷心にかこつけて、てんせ......悪意ある第三者に介入されるかもしれないですけど、私は彼をよく知らないのでフォローできません。申し訳ないんですけど、グレイ隊長からマゼンダ騎士団長に、ロータスの事を頼む事ってできますか?」
そう言ってグレイ隊長に頭を下げる。
またグレイ隊長を頼って申し訳ないんだけど、私に出来るのはこれしかない。
私は院長みたいに何でも出来るわけではないので、自分に出来ない事は他人に頼るしかない。
なんでも自分でなんとかしようとすると、実力不足で空回ってロータスみたいな事になりかねない。
これが『恋革』をよく知ってる妹だったら違ったんだろうけどな。ゲームが始まる前に登場人物を救済して、国内がめちゃくちゃになる『恋革』をスタートさせる前に終わらせていただろう。
残念ながら転生したのがゲームをよく知らない私だったため、その場の対応になってしまう。
その中でもロータスはチュートリアルで私に殴られ、謹慎処分を受け、転生者に利用された上にアイリスにフラれるという散々な扱いである。
逆切れして何かやらかされても困るので、ロータスをよく知っている、しっかりとした大人にフォローを頼みたい。
ロータス周りで言うと、私が思いつくのはマゼンダ団長くらいだ。
でも私は顔見知り程度なので、マゼンダ団長と親しいグレイ隊長に頼んでみた。
怒られるかなとも思ったけど、グレイ隊長は笑って頭を撫でてくれた。
「心配するなよ。ダリアはロータスの事を教育し直すって息巻いてたし、俺も城で見かけたら注意して見ておくさ」
私が言うまでもなかった。少し恥ずかしくなってくる。
ひょっとしたら、マゼンダ団長も今回の件でロータスに愛想を尽かしたんじゃないかと思ったけど、そんな事はなかった。
頼れる大人が多くて助かる。
グレイ隊長は私の頭を撫で終わると肩をポンポンと叩いた。
「話もまとまった所でそろそろ行くぞ」
そういえばグレイ隊長は私を探して救護室に来たんだった。
「ええと、どこに行くんですか?」
そろそろと顔を上げた私に、グレイ隊長はふっと笑った。
「嬢ちゃんが会いたいって言ってた人の所だよ。約束しただろ」