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汚い手も使いよう

 悔しそうに歯噛みするロータス。

 ロータスがボロボロだった理由はそれか。


「それは……」


 それに関しても心当たりがあるようだが、フォーサイシアは口に出すのを躊躇っている。


「ここまできたら言ってあげれば?」


 私はフォーサイシアの発言を促した。

 安易に同情せずにトドメを刺した方が苦しまずに済むって院長も言ってた。

 フォーサイシアはため息をついて話し出した。


「御前試合の時、優勝したマゼンダ団長以外、貴方の試合相手は手を抜いているように見えました」

「な、なぜだ!? そんな事、俺は頼んでいないぞ!」


 混乱した顔で顔を上げるロータス。

 しかし私でもなんとなく理由がわかる。


「ロータスは女王陛下の王配として一番の有力候補だったからでしょう? そんな相手に本気で挑んで因縁を付けられたくないよね」

「はい。ロータス様の性格とは関係なく、未来の王配候補の不興は買いたくなかったのでしょう。早くから近衛騎士団団長に推薦されていたのも、騎士団がロータス様に気に入られたいという下心が大いにあったのでしょうね」

「貴族社会に限らず、一番手っ取り早い懐柔策だもんね」


 フォーサイシアの話に私が納得している一方、ロータスはわなわなと震え出した。


「俺はそんな事望んでいないのに……勝手にそんなことをされていたのか……」


 怒っているところ申し訳ないが、ロータスも貴族として生まれたのだからそれくらい理解するべきじゃないだろうか。

 自分の出世が掛かってるんだ。汚い手も使いようである。

 フラックスなんて、アネモネの一件でクロッカス殿下と和解して以降、近づいてくる連中をどう利用してやろうか笑顔の下で考えられるタイプに化けた。元々の気質もあるだろうけど。

 ひょっとしたらロータスも、ゲーム中の冒険で精神的にも成長して考えが変わるのかもしれないが、あいにく私がチュートリアルで冒険を終了させてしまったため、ゲームのような劇的な成長は望めない。

 そう考えると、私の責任かもしれない。

 私は仕方なくロータスに声をかけた。


「ロータスだって、その違和感に気づかなかったんでしょう。若いとはいえ、親や周りに注意されなかったの?」

「少なくとも、マゼンダ団長はお前に注意してたはずだぜ」


 扉を開くと共に、第三者の声がかけられた。

 見れば、グレイ隊長が部屋に入ってくる所だった。

 フォーサイシアがすかさず出迎える。その顔はどことなく嬉しそうだ。教会の一件以降、信頼してるんだろうな。


「グレイ隊長。どうかされましたか?」

「嬢ちゃんを迎えに来たんだが、たまたまお前らの話が耳に入ってな」


 言いながら、グレイ隊長は扉を閉める。そしてロータスを睨みつけた。


「周りに持ち上げられて調子に乗ってるロータスに注意しても、まるで聞いていないとマゼンダ団長が愚痴ってたぞ。お前の父親である辺境伯は国境近くの領地に居て、お前を見てやれないから代わりに指導しないといけないのに情けないってへこんでたんだからな」

「そんな……団長にまでご迷惑を……」

「都合のよい言葉だけ聞いて、アイツの言葉を聞き流してたんだろう。ちゃんと反省しろ」


 ロータスは流しているけど、グレイ隊長はマゼンダ団長のそんな愚痴まで聞いてるのか。

 やっぱり仲が良いな。

 二人が酒でも飲みながら愚痴っている様子が頭に浮かんだが、マゼンダ団長は貴族のお嬢さんなのであり得ないだろう。慌てて妄想を頭から追い払う。

 そしてふと、気になったことをロータスに尋ねてみた。


「ひょっとして、前にロータスがお城に忍び込んだ時に付いてた二人もロータスを持ち上げてた人たち?」

「違う! あの二人は騎士団の仲間であり友だ!」


 ロータスは頭を振って否定するけど、今日の態度は友達って感じじゃなかったぞ。

 フォーサイシアも溜息をついてロータスを否定する。


「貴方を床に投げ捨てて帰られましたが。それが友人なのですか?」

「うっ」

「自分が処罰されるような危ない橋を渡らされたんだ。アイツらもお前がまだ王配の有力候補だったから従ってただけで、旨味もなくお前に利用された分、不要になったら見捨てるに決まってるだろ」

「そんな……俺は二人を利用なんて……」


 グレイ隊長にバッサリ切り捨てられても、まだ認められないらしい。

 それを見てグレイ隊長は肩を竦めてロータスに近づいた。


「そこらへんも含めて、マゼンダ団長に話を聞きに行けよ。アイツならお前の話を親身に聞いてくれるさ」


 そこでフォローを入れてくれるところがグレイ隊長の優しさだ。

 私だったら投げ出している。

 グレイ隊長はベッドにいたロータスを無理やり引きずり出して立たせる。


「ロータスがいつまでもいるとフォーサイシアも帰れないだろ。怪我が良くなったんだったら帰れ。フォーサイシアも就業時間を過ぎてるんだから、帰って休めよ。今日は大変だっただろ」

「あ、はい。ありがとうございます」


 フォーサイシアが慌ててお礼を言う。

 全方向に気遣える大人だ。

 これで恋人もいないのはやっぱりおかしいと思う。


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