パフォーマンス
私が何故こんなにアイリスの好きな相手を気にしているかというと、ゲームが再び再開するのを恐れている為である。
チュートリアルを邪魔して以降、ようやく全ての攻略対象のシナリオが終わりそうなのに、また問題が発生したら困る。
絶対にまた巻き込まれる。いい加減に学習した。
問題が起きなければそれで良いけど、油断は出来ない。
だからアイリスのお相手を見極めて、今度こそシナリオの先回りをしておきたい。
決して野次馬精神で尋ねているわけではないのだ。
教会との一件以降、アイリスとフォーサイシアは何度もあっている。
周りからもフォーサイシアが相手なんじゃないかと疑われるくらいだ。
ヒントくらいは知らないかと思って尋ねてみたが、フォーサイシアは首を横に振った。
「わかりません。ただ教会の者がそれとなく私を勧めてきた時に、女王陛下がやんわり断られていたので好きな方がいるのだと思った次第です」
「そうなんだ......」
女王陛下の恋のお相手なんて、未来の王配かもしれない。周りが騒ぐのもわかる。
気軽に恋も出来ないなんて、アイリスも大変だ。
アイリスに同情していたら、フォーサイシアは少し首を傾げた。
「私はアイリス様のお相手はフラックス様かと思っていたのですが、違うのでしょうか?」
「どうして?」
フォーサイシアから意外な名前が出たので、思わず聞き返す。
フォーサイシアは姿勢を正して話し出した。
「今回の一件でロータス様以外にもフラックス様の事も話題になっています。10年前の反乱で女王陛下のご両親や親族も犠牲になっていた事から、反乱の主犯たるブルーアシード家は貴族達から爪弾きにされてきました」
それはそうだ。
父親が大罪を犯して、息子まで責められるのは可哀想な事だけど、大切な人が犠牲になったら簡単に割り切れる事ではない。
クロッカス殿下は許してくれてたけど、多くの人にとっては簡単に許せる事ではないのだ。
「ですが今回、女王陛下はフラックス様を呼び出し、これからも王家を支えて欲しいと仰いました。それにクロッカス殿下とも和解なさった。貴族達には衝撃だったでしょうね」
「つまりフラックス様や殿下への言葉は......政治的パフォーマンスだったって事......?」
「計算か天然かわかりませんがね」
フォーサイシアは苦笑した。
アイリス、恐ろしい子......。
アイリスが態度で示したという事が貴族達には重要なのだろう。
これで表立ってアイリスとクロッカス殿下の対立を煽れなくなる。殿下を引きずり下ろして権威を取り戻そうとしていた側には手痛いものだ。
「そして女王陛下がそのように動かれたのは、フラックス様を慕っているからだと私は考えたのです」
「なるほど。フォーの考えはわかったよ。でも私はフラックス様ではないと思うんだよね」
私の言葉にフォーサイシアは眉を顰めた。
「どうしてですか?」
「フラックス様が好きなら、あの場で告白してたと思うから」
『大胆な告白は女の子の特権』って妹も言ってたし。
「ロータスの事もわざとじゃないにしろ、目の前でフッたし、好きなら流れで告白すると思う。あの場にはクロッカス殿下もいたし、証人としては十分な人達がいた。フラックス様にその気がなくても流れで頷かざるを得ないというか......そもそも女王陛下の告白なんて断れないでしょ」
私の言葉にフォーサイシアは難しい顔をした。
「フラックス様も......女王陛下をお慕いしていたりはしないのですか?」
「それはないと思う。自力で家を再興するんだっていつも言ってるし、お城では私と一緒にいるのがほとんどで、女王陛下とそんなに関わってないみたいだから」
何故かフォーサイシアの顔が引き攣った気がしたが、多分気のせいだろう。
フラックスがアイリスに関わってるようだったら、まだわかりやすかったんだけどなぁ。
もちろん、私が間違っていてフォーサイシアの言う通りにフラックスが好きな可能性もあるが、そうなるとゲームみたいに会う時間を増やして好感度を上げる気がする。
普通の恋愛だって、好きな人にはなるべく会いたくなるものでしょ?
それがないって事は違うんじゃないかな。
そうなると攻略対象で残っているのはジェードとネイビー、そしてサルファー皇子だ。
しかしネイビーはアイリスと出会う機会がない。
サルファー皇子は今日がアイリスと初対面だから、アイリスの証言と矛盾する。
となると残りはジェードなのだが、あの会議中もアイリスはジェードに意識を割いていなかった。
ジェードが好きなら彼が私の側にいったり、話していたら少しくらい嫉妬したり、アクションを起こしそうなものだ。
恋心を隠しているのかもしれないが、それならあんなに大勢の前で『好きな人がいる』なんて言わないと思うし、フラックスと同様の理由であの場で本人に告白まで言ってそうである。
そうなるとアイリスが誰を好きなのか、まるでわからなくなる。
「ひょっとして、攻略対象じゃないのかな......」
ここまでゲームをぶち壊したのだ。アイリスの恋の相手は普通に貴族の子弟で、ゲームとはもう関係ないのかもしれない。
そんな希望的観測を残して、私の独り言は宙に消えた。