誰にでも死亡フラグは立つ
死ぬ? 急に物騒なワードが飛び出してきたんだが。
「ジェード? 冗談、だよね?」
様子を伺うようにジェードを見るが、殺気のこもった目線をアンバーにぶつけるだけで返答はない。対するアンバーは道化じみた笑顔で肩を竦めた。
「おお、怖い怖い。ですが、私を気にかけるよりご自分の事とを優先してはいかがですか? 時間がないんですから」
ジェードは苦虫を噛んだような顔で踵を返そうとしたが、そうは問屋が卸さない。ジェードの手はまだ私が掴んだままだ。
「待ってよ。どういうこと!?」
「サクラには関係ない」
「関係なくてもジェードが死ぬなんて言われたら放っておけるわけないでしょう!?」
啖呵を切ったらジェードから凍るような目線を向けられた。でも、手は振りほどかれることはない。
どんなに冷たい目で見られても引かぬ! 虚勢だってことくらいわかるんだからね!
しばしのの沈黙。やがて根負けしたのかジェードが目を逸らして溜息をついた。
「……わかった。少し場所を変えよう」
ジェードがちらりと目線を向けると、まだアンバーがこちらを見ていた。私の視線に気づくとにこりと笑顔を返される。
楽しそうだな、おい。
これ以上アンバーを楽しませる気はないので、私はジェードに従って廊下を歩き出した。
とりあえず持っていた書類は届けて話を聞くことにした。ジェードに連れられてきたのは、こんな部屋あったのかと驚くような目立たない小さな部屋だ。
ひょっとして隠し部屋か? 存在を知らなければわからない魔法とか使われてそうだ。
そこまで来てようやく、ジェードは私とずっと手を繋いだままなことに気がついたらしい。慌てて手を離して距離を取られた。
「あ、ご、ごめん」
「いいよ。私が最初掴んだんだし」
ジェードは恥ずかしそうに目を逸らす。
懐かしい気分になってたのは私だけだったらしい。
ごめん、思春期だもんな。恥ずかしいよね。
私は中身が大人なので、そんな反応も微笑ましくみえてしまう。
ジェードは取り繕うように咳払いすると、真面目な顔で語り始めた。
「僕はこの城の隠し通路を探してるんだ」
「隠し通路?」
確かにお城なんて隠し通路も隠し部屋も探せばありそうなものだ。でもわざわざ『王の影』が探すまでもない気がする。
「なんでそんなのをジェードが探してるの?」
「それを使った人がいて...問題になったんだ。その人のことは僕が見ていないといけなかったんだけど、僕はその時丁度いなくて......」
ジェードははぐらかしつつ話してくれてるけど、なんとなく理解した。
アイリスがその隠し通路から抜け出したから問題になってるんだな。
女王陛下が城から逃げ出そうとしたなんて言えるわけがない。私は直接見たから知ってるけど。
そしてまた抜け出されたら目も当てられないから、わざわざジェードが探してると。
「それで期限内に見つけられないと......殺される」
「なんで???」
急に話が変わったぞ???
「上司がミスを許さない......凄く厳しい人だから......」
ジェードが絞り出すような声で答える。その声は恐怖に震えている。
この場合の上司って多分『王の影』の方だよね。
幼馴染が就職したのはとんでもないパワハラ職種だ。