幻聴
アイリスは次にクロッカス殿下と向き合う。
「伯父上。私は今まで周囲の都合のいい言葉ばかり信じて、勉強をサボり、与えられた政務にも消極的でした。これでは伯父上も私に国を任せようと思えなかったことでしょう。ですが、私は心を入れ替えました。女王として、国と民を守りたいと心から思っております」
「そうですね。以前とは比べ物にならないほど、勉強にも政務にも積極的になられました。私としては喜ばしきことです。女王陛下」
クロッカス殿下がアイリスに合わせて立ち上がって礼を取る。
『以前』とは、ロータスと逃げ出したことだろう。
アイリスは教師にダメ出しを受けた子供のように苦笑いを浮かべた。
「まだ至らない部分が多いと思いますが、良き王になれるように伯父上に見守っていていただきたいのです。さもないと、また元のダメな私に戻ってしまいそうですから」
「女王陛下は国と民を思う心を持っています。そして何よりも周りから愛されている。貴方の父と同じように、王になるには十分すぎる素質をお持ちです。城には優秀な人材が山ほどいます。それを正しく使えるように、人を見る目を養い、民の導いてください」
「ありがとうございます。伯父上」
今度はラスボス和解ルートの台詞だ。
アイリスは涙を堪えたような表情でクロッカス殿下を見つめているし、顔を上げたクロッカス殿下はアイリスに、娘の成長を喜んでいるような穏やかな視線を向けている。
それを見ていると、何故か胸の奥が痛くなる。
それに合わせて、頭の中で幼い子の嘆く声が響いた。
何といっているかわからないけれど、あまりにも悲しそうなその声に耳を傾けて―――
「サクラ?」
ジェードの声で我に返った。
少しぼんやりしてしまったようだ。
もう謎の声も聞こえない。
「ごめん。緊張してたから、気が抜けてぼんやりしちゃった」
心配そうなジェードにそう伝えて、そっと辺りを見回す。
周りは私の異変には気づいていないようだ。
一瞬、アンバーと目が合ったがすぐに逸らされてしまったから、偶々目が合っただけだろう。
幻聴だったのかな。
ジェードはまだ心配そうに私を見つめているけれど、女王陛下の手前、深くは追及してこない。
謎の症状に見舞われたせいで、モブの私としてはさっさと会議場から退散したくなったのだが、アイリスの独壇場はまだ続いた。