主人公覚醒
貴族のお嬢様だったアネモネが、ルートボスとして戦えた理由がわかった気がする。
水鏡が魔法や物理攻撃を、ある程度弾いてくれていたのだろう。
納得していると、サルファー皇子が立ち上がってアイリスの前に進み出た。
「この度は帝国の落ち度でウィスタリアに多大な迷惑をおかけして本当に申し訳ない。本国に帰り次第、今回の事件の関係者を洗い直して厳正に処罰する。それでも帝国に懐疑心を抱くなら、皇族から人質をウィスタリアに送ろう」
「いいえ。両国がいがみ合っては、それこそ他国の思う壺です。これからも両国で協力していきましょう」
アイリスが右手を差し出すと、サルファー皇子もそれに応えて二人は握手を交わす。
その後も二人は犯人の処遇に関して両国間で協議すると言葉を交わしている。
そんなアイリスの堂に入った対応にとても驚いた。
初めて出会った時はオドオドとして不安そうな、守ってあげたいか弱いお姫様だった。
しかし今は不測の事態にも悠然と対処出来る、ゲーム終盤の姿を彷彿とさせる態度だ。
何かが起きてもロータスに引っ張られるだけで自分の意見も言えないような、引っ込み思案の女の子だと思っていたけれど、随分と印象が違う。
ちらりとロータスの様子を伺うと、彼も驚いたように目を丸くしてアイリスを見つめている。
公務中だから普段の自分を隠しているのかと思ったけど、そうでもないようだ。
ジェードは表情を変えずにアイリスを眺めているので、何か知っているのかもしれない。
会議の後で尋ねてみようと思った所で、話に区切りがついたのか、帝国側が退室していく。
空気に徹していたおかげでモブでいられたようだ。
初の快挙に内心小躍りしながら喜んでいると、アイリスがフラックスに向き直るのが見えた。
「突然の要請にも関わらず、ブルーアシードの家宝を持ち出してくれた事を感謝します。また、不測の事態でその身と宝を危険に晒す事になり、女王として己の軽率さを嘆いています」
「これはウィスタリア王国と王家を守る為に授けられた物です。王国を魔の手から守る為に使うとあれば、私の先祖も鼻が高い事でしょう」
フラックスが生真面目に礼をとって答える。
それにアイリスは花が咲いたように、ふわりと微笑んだ。
「初代国王陛下から続く、ブルーアシードの王家への忠節には感謝しています。これからも私と王国を支えてください」
「有り難きお言葉、感謝します。女王陛下」
これ、フラックスルートの台詞じゃないか?
頭の片隅にある記憶が呼び出されて愕然とする。
花のような笑顔のアイリスはまさに物語のヒロインに相応しく、とても魅力的で愛らしい。
今、まさに恋が始まってもおかしくない。
一方のフラックスは相変わらず生真面目な表情のままだ。
そこは頬を染めるとか、わかりやすい反応が欲しかった。
こんなに可愛い女の子が近くで笑ってるんだぞ。私が男なら堕ちてた。
フラックスが照れ隠しで反応を示さないだけかと思ってじっと眺めていたら、バッチリ目が合った。
何故か満足そうな顔で頷かれた。
なんだ、その『他の子と話してるのを見て嫉妬してるのか。可愛い奴め』みたいな少女漫画にありがちな顔は。
私の少女漫画への経験値が低すぎるから、ただの勘違いだろうけど。