思い人
フォーサイシアに促されて救護室に入ると、治療を終えたロータスとバッタリ出会った。
すかさずジェードが前に出て礼を取る。
「コーディアルレッド様はこのままお待ちください。別の者が呼びに参ります」
「わかった」
そのままジェードはロータスにも気を配っている。
話を聞く限り、ロータスも不法侵入したみたいだからジェードが警戒するのも当然だ。
怪しい動きをしていないか見張るために、目の届くところにいてほしいのだろう。
私はそれを横目にフォーサイシアに診察してもらう。
診察と言っても、光の魔法で全身を照らされて一瞬で終わる。
これで怪我がわかるのは便利だ。
教会ってゲームでは『回復できる場所』みたいな扱いされることが多いから、フォーサイシアも回復魔法が得意だった。
ひょっとしたら隠しルートの帝国編は教会とそんなに関われないから、攻略対象のフォーサイシアだけ特別枠でお城にいるのかもしれない。
「特に問題ないみたいですね。ですが、危ないことはしないで下さい。兄さんも心配しますから」
「う……はい」
概念幼女を持ち出されると頷くしかない。
「今度は何があったんですか?」
苦笑するフォーサイシアに問われ、どこまで話していいか考えていると再び救護室の扉が開いた。
「その話をこれからするんだ。帝国との緊急会合だ。ロータスと……お前も来い、サクラ」
「フラックス様!?」
入ってきたのはフラックスだ。
人がいる手前、仏頂面を貫いているが、あれは怒っている。私にはわかる。ジェードと同じだ。
「わ、私も行くんですか?」
恐々とフラックスに話しかけると、思いっきり睨まれた。
「当たり前だ。お前は重要参考人だからな。何が起きたかしっかり証言してもらうぞ」
腕を組んではっきり宣言されてしまった。逃げ場がない。
「その……帝国との緊急会合って事は、皇子様もいらっしゃるんですよね?」
「ああ。皇族が巻き込まれた以上、大事だ。クロッカス殿下だけでなく女王陛下も出席されるから、言動には注意するように」
証言した結果、怒られるのが確定した気がする。
クロッカス殿下がいるって事は、グレイ隊長もアンバーも一緒にいる気がする。
ついでにさっき院長の姿も見かけたから、絶対に方々から怒られる。
想像したら胃が痛くなってきた。
フォーサイシアに頼んでここで寝かせてもらいたいが、呼び出しがかかった以上そうもいかないだろう。
泣く泣くフラックスに同行しようと扉に近づいたところで、ロータスが話しかけてきた。
「ひょっとして、この中の誰かがお前の思い人なのか?」
そういえば、皇子様に問われて『心に決めた人がいる』とか適当に言ったな。
ここで嘘とばらしてしまうと、単純なロータスは皇子様と会った時に口を滑らせかねない。
だからロータスにバレないように、私は笑顔を作って人差し指を立て唇につける。
「秘密。まだ言えないんだ」
「……そうか、すまない」
何かを勘違いしたのか、ロータスが殊勝な顔で謝ってくる。
帝国が帰った後に嘘とばらそう。変な噂を立てられたら困る。
ロータス以外の三人が狼狽えている気がするけど、多分気のせいだろう。