救護室
中庭の茂みから出ると、辺りは騒然としていた。
ロータスのファイアーボールが爆発したから、周りも異変に気づいたのだろう。
すぐに近衛隊が駆けつけてくる。
先頭の皇子の前でマゼンダ団長が恭しく一礼した。
「ジョン皇子、ご無事で何よりです」
「ああ」
後ろでは野次馬がてら見物している貴族やら使用人がヒソヒソ話し合っている。
「なんでロータスがここに......?」
「あの女は誰だ?」
サルファー皇子とマゼンダ団長が話している間に、近衛隊が暗殺者を縛り上げてつれていく。
その間、手持ち無沙汰でロータスと一緒に好奇の目に晒されていたら、不意に袖を引っ張られた。
「お二人はこちらへ。傷の手当てをします」
声の主に目を向けると、そこには執事姿のジェードがいた。澄まし顔をしているが、私にはわかる。
怒っている。凄く怒っている。
冷や汗を垂らす私に気づかずに、横にいるロータスが頷く。
「ああ、頼む」
「ではこちらへ」
恭しく首を垂れて、ジェードが歩き出す。
ジェードに袖を掴まれている私も、強制的に中庭から連れ出される。
サルファー皇子にこれ以上関わらなくていいのは助かるが、ジェードの方も怖い。
戦々恐々とする中、城の中にある救護室のような場所に連れて行かれた。
「コーディアルレッド様から先にどうぞ」
ジェードに促され、ロータスが先に部屋の中に入っていった。
その途端、ジェードは私をキッと睨みつけた。
「サクラ! また危ないことに首を突っ込んだの!?」
「違うよ! 皇子様が空から降ってきたんだよ!」
「はぁ?」
「本当だよ!」
ジェードが眉を顰めるのも仕方がない。
私も実体験しなかったら信じなかった。
「……サクラが言うなら信じるけど。それなら、なんであんなところにいたの?」
ジェードは不承不承といった顔で納得してくれた。
なんて優しいんだ。
けれどその問いには目を逸らすしかない。
「ロータスがこそこそ忍び込んでるのを見かけて……」
「やっぱり自分から行ってるんじゃん!」
結局、怒られた。
またも年下に本気で怒られていると、救護室の扉が開いた。
「すみません。静かにしてもらえませんか」
「あ、すみませ……フォー!?」
慌てて謝りかけて、中から出てきた人物に驚く。
困り顔のフォーサイシアがそこにいた。
「なんでここに?」
「知り合いが体調を崩しまして、偶々代わりを頼まれたんです。その……城に行けるならサクラにも会えるかと思いまして」
フォーサイシアは照れながら頬を掻く。
社交辞令でも嬉しいことを言ってくれる。
「フォーサイシアも忙しいからね。会えて嬉しいよ」
「はい。私もです」
にこにこ笑い合っていたら、ジェードが咳払いして間に割って入ってくる。
フォーサイシアはようやくジェードの存在に気づいたようで、穏やかで余裕たっぷりの笑顔を向ける。
「そうでした。サクラも中にどうぞ。貴方は……」
「僕も付き添います」
ジェードが私の腕を掴んで宣言する。
フォーサイシアの事を睨んでいるけど、まだ大聖堂に潜入するのを断られたことを恨んでいるのだろうか。