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猿も木から落ちる

「申し訳ありません。私の忠義は女王陛下とこの国に捧げると、幼き日に誓ったのです。どのような褒美を持ってしても、決して覆す事は出来ません」


 ロータスは迷いなく、真っ直ぐに宣言する。

 頭を下げたままだが、その表情は微塵も揺るぎない。


 こんな真っ直ぐな性格だから、アイリスは好きになったんだろうな。


 フォーサイシアの言っていた『女王陛下には想い人がいる』って言うのはロータスの事だろう。

 私がチュートリアルをぶち壊さなければ、ゲーム通り結ばれていた二人だ。

 二人の輝かしい未来を破壊した事に対して罪悪感があるにはあるが、それによって起こるのは国内を乱す内乱である。

 モブ故に、私が巻き込まれて死ぬ可能性は高い上に、孤児院の皆もそうだ。

 だから罪悪感よりも、止めて良かったという感情の方が強い。

 一方、断られたサルファー皇子は何故か満足気に、そして鷹揚に頷いた。


「よい、許す。ますます気に入ったぞ。そのような忠義に厚い者が、我が国にも欲しいものだ」


 誉めながらも、ロータスを見つめる視線は獲物を狙う猛禽類のような鋭さがある。


 あれは全く諦めてないな。帝国の人間って怖い。


 ついでとばかりに私に視線を向けられる。

 このまま空気に徹していたかったが、そうもいかないらしい。

 まだ手を取られたままなので、逃げる事もできない。


「お前も中々強いな。見目も悪くない。我が国にくれば、私の側仕えにしてやろう」


 やたら甘い声で言われたが、側仕えってなんだ。

 使用人か、愛人ーーーはないか。護衛って意味ではないだろう。

 帝国は女性騎士どころか、官僚に女性がいない。

 そもそも帝国では女性は家庭を守る者であって、使用人など限られた職にしか就く事ができない。

 『恋革』のゲーム内では、アイリスとの交流でサルファー皇子が考えを改め、帝国でも改革を進める流れだったはずだ。

 しかしアイリスとサルファー皇子が交流を深めない以上、帝国内の意識も変わらない。


 はっきり言えば、今の給料と待遇を蹴ってまで帝国に行く魅力がない。ゼロである。


 しかしロータスのように、皇子様を納得させる理由じゃないと面白半分で連れて行かれそうな気がする。

 だからといって、帝国の女性意識をどうこう言うと、帝国への批判と取られかねない。

 何時でもいうが、モブには厳しい世界なのだ。

 そこで唐突に思いついた。


 そうだ。乙女ゲームなんだから『恋愛』が強いパワーと説得力を持っているのでは?


「申し訳ありません。私には心に決めた方がいるので、この国を離れる選択肢はございません」


 思いついたら即実践。口元を片手で隠し、恥じらうように視線を左下に向ける。

 すると皇子様は残念そうに私の手を離した。


「そうか。それは仕方ないな」


 恋愛パワー強い。

 もう少し早く気づけば良かった。

 皇子様が言葉とは裏腹に『俺の誘いを蹴るとは、おもしれー女』って顔をしている気がするけど、多分気のせいだろう。

 そもそもこんな所で呑気に話している場合ではない。

 皇子がいなくなって、帝国側の人間は大騒ぎになっているだろうし、地面に転がっている暗殺者がいつ起きるかわからない。

 だからそろそろ城の中に戻りましょう、と言おうとした瞬間。


「みゃ!?」


 謎の声と共に木の上から何かが落ちた。それは木の下の木陰に落ちて姿が見えなくなった。


 一瞬だったけど、成人男性くらいのやけに白っぽい、見覚えのある......院長では??


 幸い、落ちたのが皇子様の背後だったし、まだロータスは膝をついて下を向いていたから姿を見られてはいない。

 しかし二人とも不審そうな顔で木陰を見つめたため、私は慌てて声を上げる。


「あ、あー! 猫! 猫でした! さっきの爆発でビックリしたんですかね! まだ危険なので、早く離れましょう!」


 今度は私が不審そうな顔で見られたが、院長の目立つ姿が見つかるよりマシだ。

 あの程度の木から落ちた所で怪我もしていないだろうし、とっくに別の場所に移動してるだろうけど、万が一があったら困る。

 多分、私を助けに来たか、皇子様を探しに来て様子を伺っていたのだろう。

 さっきロータスの『ファイアーボール』が謎の挙動と威力だったのも、院長が関与したに違いない。


 しかし、院長でも木から落ちるんだな。

 初歩的なミスをするほど、ショックな事でもあったのだろうか。


例え嘘とわかっていても、父親的に娘に言われたらショックな言葉はあります。

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