転生者の存在
サルファー帝国は各国の領土を狙い、戦を仕掛けては支配圏を増やしていた。
そのため、帝国の皇族は国内外から命を狙われる。
ゲームではそう説明されていた。
今回も皇子の暗殺が計画されていた。
しかもただの暗殺ではなく、ウィスタリア王国に暗殺の責任を擦りつけたい他国の意思が絡んでいる。
その暗殺現場を目撃した心優しい主人公のアイリスは、女王という立場にも関わらず咄嗟に皇子を庇って怪我をしてしまう。
肉親にも他人にも騙し騙される生活をしていたサルファー皇子は、それに心を打たれてアイリスを気にかけるようになる。
しかし両国間では誰が暗殺を仕掛けたのか、どちらの国のせいなのか疑心暗鬼に陥り、関係が悪化してしまう。
それをアイリスとサルファー皇子が交流しつつ謎を解いて結ばれ、晴れて両国は平和になるというのが帝国ルートである。
なんで今まで忘れてたんだ。もっと早く思い出していれば何とかなったかもしれないのに!
問題点は他にもある。
ロータスが何故この話を知っているのかという事だ。
帝国ルートの序盤でロータスがこんな動きをしていた記憶はない。
序盤に他の攻略対象が目立ってしまったら、せっかくの『帝国の皇子様』ルートなのに他の人物に印象を食われてしまう。
だから他の攻略対象が出てくるのは、いくつかイベントという名の戦闘を挟んだ後だ。
ゲームを進めるまで戦闘画面に他のメンバーが出てこなかったから、それは覚えている。
イレギュラーな動きをしているロータスのおかげでシナリオを思い出せたが、自分の屋敷で反省を強いられていたロータスが何故こんな事を知っているのか。
「この話、どこから聞いたの?」
組み敷いていたロータスに勢いよく尋ねる。
私の下から抜け出そうともがいていたロータスも、私の勢いに思わず動きが止まった。
「そ、それは屋敷に尋ねてきた男から聞いたんだ。今日の出来事でアイリスさまが怪我をするのも聞いた。更に今日なら何処から入れば人目につかずに城に入れるのかも教えてくれたんだ。この前はいてもたってもいられずに自分で動いて失敗したが、今日はあいつの言う通りにしたら本当に見つからずに入れたんだ」
これは......暗殺者側の内通者かもしれないけど、それだとわざわざロータスを選んだ理由がわからない。
そうなるとロータスを攻略対象だと知っている転生者しかない。しかも私よりゲームに詳しい!
「具体的にどんな背格好だった!?」
焦って問い詰めると、ロータスは私の勢いに負けてかスラスラ喋ってくれる。
「フードを被っていて背格好はわからなかったが、声からして男だ。俺も正体が気になって屋敷の皆に尋ねたが、俺を尋ねる客などいなかったと言われて......」
「よくそれで信じたね?」
私だったら白昼夢か幻覚を疑う。
しかしロータスはそんな私を鼻で笑う。
「あいつは信じて貰えるよう必死になっていた。誰からも後ろ指を刺される俺に土下座してまで頼んできたんだ。俺としては嘘でも真実でも、アイリスさまが傷つくのは御免だ。なんとしてでも阻止しなければと思ったんだ」
相手も転生者なら、ロータスがアイリス命で正義感が強いのを知っていたのだろう。
そしてどうにか国同士の戦争を避けたくて、攻略対象を頼ったに違いない。
ただ他の攻略対象―――フラックスやジェードは証拠もないのに、こんな話をしても鼻で笑われて終わりだ。
フォーサイシアは話を聞いてくれるかもしれないが、教会関係者で外交に直接関われる立場じゃない。知り合いに注意を促すのが精一杯だろう。
ネイビーも同じだ。
そうなると、信じて後先考えずに動いてくれるのはロータスしかいない。