暗殺計画
「騒いだら容赦はしない。何が目的だ」
言いながら、口元を覆っていた手を離す。
もし騒がれたら全力で後ろに跳躍して、何食わぬ顔で草むらから出るだけだ。お前だけ見つかるがいい。
しかし相手も他の人に見つかるのを恐れてか、大声をあげたりはしなかった。
「何者かは知らないが、俺はアイリスさまを守るために行動しているんだ。邪魔しないでくれ」
絞り出すような険しい声だった。
あれ、この前世の声優みたいな声を最近聞いたような。
私は勢いよく相手の顔を隠していたフードを取った。
燃えるような赤い髪、朱色の瞳―――やっぱりロータスだ。
ロータスも私の姿を認めて目を見開いた。
「お前……!」
ロータスの体を赤い魔力が覆う。
こんな所で魔法を使う気か?
私は魔法を発動される前にロータスを足払いして地面に倒し、ロータスに馬乗りになる。
首元にスプーンを当てるのも忘れない。
「騒いだら不利になるのはあんたでしょ」
ロータスは悔しそうな顔で私を睨む。
こうやって先手を取れる『素早さ』に特化してるのは、多分妖精の血の効果なんだろうな。ステータス面でプラスに働いてるんだろう。
私はロータスを冷めた目で見下ろす。
「アイリス―――女王陛下の危機って、前もそんなこと言ってなかった? グレイ隊長に連れられて、マゼンダ近衛騎士団長に話したんでしょう?」
「話したが信じてもらえなかったんだ! 逆に反省が足りないと叱られて……」
ロータスは悔しそうな顔を隠さない。
ゲームでもアイリス命なキャラだったもんな。
アイリスの危機となれば他のルートでも文句を言わずにサポートに回ったり、戦闘に参加してくれるくらいだ。
しかしそれでも呆れるしかない。
「それでまた侵入してくるガッツは認めるけど、見つかったら今度こそ処罰されるよ」
「構わない。アイリスさまを助けるためなら、いくらでも我が身を犠牲にしよう」
燃えるような瞳が私を射抜く。
熱いなぁ。親御さんとかはたまったもんじゃないだろうけど。
でもロータスは嘘が苦手な真っ直ぐなキャラクターだ。
彼の言う通り、城に侵入したのは本当にアイリスのためなんだろう。
「そこまで言うなら聞くけど……女王陛下に危険が迫ってるって、具体的にどんな?」
「今日、サルファーの皇子に暗殺計画が立てられている。しかもアイリスさまの目前でだ。アイリスさまも危険にさらされるし、何より―――その暗殺を我が国のせいにする予定なのだ」
ロータスは真剣な表情だ。
本当だったら大ごとだ。
けれども私は憮然とした顔でロータスに問う。
「その話の証拠は?」
「ない!」
きっぱり言い切るロータスに呆れかえる。
「そ……」
―――そんなの誰も信じるはずはない。
そう言おうとしたが、ふと思い出す。
―――違う、合ってる。
なぜならそれが帝国ルートの始まりなのだから。