決死
なんでロータスがここに。自宅謹慎処分を受けているはずでは?
そんな疑問に答えるように、ロータスが悔しそうに口を開く。
「アイリスさま……女王陛下にどうしても伝えなければならないことがあるんだ!」
「そんなに重要な事なら、お前の父親の辺境伯に頼めば良かっただろう。お前がわざわざ城に来る必要はない」
グレイ隊長が冷めた目でロータスを見つめる。
普段表情豊かな人の真顔、怖い。
後ろの近衛騎士団二人はビビって後ずさりしているが、ロータスは負けずにグレイ隊長を見つめ返す。
「父上に伝えたが、取り合って下さらなかったのだ! だから決死の思いで伝えに来たんだ!」
グレイ隊長は呆れたように溜息をつく。
「お前がどんな覚悟だか知らないが、他人を巻き込むな。お前だけでなく、その二人まで罰せられるんだぞ。お前はそいつらを守れる力がないだろ」
「それは……」
図星を突かれたのか、ロータスの視線が地面に落ちる。
グレイ隊長はじっとロータスを見つめると、刺さっていた剣を回収してロータスのフードを再び被せた。
「しょうがねぇな。マゼンタ団長には会わせてやるから、あいつに伝えろ。それで信用されるかはお前次第だ。お前らも、見なかったことにしてやるからとっとと行きな」
ロータスが逃げないように首根っこを掴みながらも、オロオロしている残りの近衛騎士の二人を追い払うように投げやりに手を振る。
結局、聞いてあげるんだ。やっぱり良い人だな。
感心していたら、グレイ隊長と目が合った。
それまでの厳しい顔から一転、いつもの頼れる笑顔に戻る。
「悪いな、嬢ちゃん。そういうことだから、また今度な」
グレイ隊長の言葉で、ロータスはようやく私に気づいたようだ。
「あ、お前……!」
ロータスは何か言いたそうだったが、グレイ隊長に引っ張られて行ってしまったため、その先の言葉を聞くことは叶わなかった。