昔話と恋話
「どこが好きなんですか? 好きになったタイミングは?」
三人にグイグイ聞いていたら、突然背後から声をかけられた。
「何をしているんだ」
振り返ればそこにはお姉様......じゃない、マゼンダ近衛騎士団団長が片眉を上げて立っていた。
まずい。現状、明らかに私が不審者になっている。
「あ、その、これはですね......!」
しどろもどろになりつつも、言い訳を探す。
他人の恋心を軽率に暴露するわけにもいかない。貴族の子も混じっているから余計に。
しかし、こういう時に限っていい案が浮かばない。
いい案がないかとぱっと三人の方を見れば、逃げるように走り去る背中が見えただけだった。
なんでだ。
視線をマゼンダ団長に戻すと、彼女も走り去る女性達を見てため息をついていた。
そして私に視線を向けて、安心させるように笑った。
「お前を助けようと思ったんだが、いらなかったようだな」
「え!? あ、ありがとうございます......2回も助けていただいて」
「民を守るのも貴族の義務だ。礼には及ばない」
私が助けられる側だった。
フラックスの時と違って、私が完全に不審者だったのに助けてくれるなんて、優しい人だ。
グレイ隊長とは仲が悪そうだったけど、あれは二人の間に色々あったからなんだろうな。
「それにしても......お前を見ていると昔のクロッカス殿下を思い出すな」
「え?」
マゼンダ団長は顎に手を当てて私をマジマジと見つめる。
なんで? 見た目は全然似てないんだが?
ビクビクしているとマゼンタ団長は再び口を開いた。
「昔の殿下も騎士だった奥方と婚姻を結ぶ前は『雪の妖精の加護を独占するな』とか、『あの方の隣は自分が相応しい』と色々言われていてな。それを今のお前みたいに質問責めと誉め殺しにしていた」
何やってるんだ、あの人は。
側近二人の話からして、両片思いみたいな状態だったはずなのに、他人にリリーさんを勧めるな。
殿下は好きな自覚がなかったとしても、鈍すぎじゃなかろうか。
呆れているとマゼンタ団長は思い出したように微かに微笑んだ。
「最終的には奥方が助けに来るのがお決まりだったな。殿下に何を言おうと二人の間に入る余地がないとまざまざと見せつけられる輩を見るのは面白かったぞ」
楽しそうに話すマゼンタ団長に思わず首を傾げる。
「ひょっとして、殿下かリリーさんのどちらかと仲が良かったんですか?」
「ああ。私は奥方と仲が良かったんだ。私は彼女に憧れて騎士になった。当時、女性で騎士なんて私とあの人しかいなかったからな。内緒で剣の指導してもらったんだ。今でも尊敬する私の師だ」
「そうだったんですね......」
そうやって前例がないことに挑戦する女性がいたからこそ、他の女性が普通に今があるんだろうな。
リリーさんもそうだけど、貴族側で今も活躍してるマゼンタ団長も凄い。
それにしても、リリーさんに剣の指導をしてもらったって、グレイ隊長も同じ事を言ってたような......。
色々考えていたら、マゼンタ団長がふと顔を上げた。
「長話をしてしまったな。お前を見ていると、何だか懐かしい気分になってしまう。またトラブルに巻き込まれないように気をつけるんだぞ」
「あ、ありがとうございました!」
頭を下げる私に背を向けて、マゼンタ団長は去っていった。