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孤児院育ち

 院長の件は院長が悪いのであって、ジェードは悪くないと再三言い聞かせているが、やはりトラウマの方が強いらしい。

 やっぱり後で殴る。

 心に誓いながらも、話が途切れたところで私はジェードに聞きたかった事があった。


「ねぇ、ジェード。変な事を聞くけど......もし両親が迎えに来たら、どうする?」

「はぁ?」


 唐突な話題に目を点にするジェード。

 孤児院では両親が迎えに来てくれるのを夢のように語る子どもも多かった。

 私は中身が大人だったし、親は亡くなったと院長に言われていたので、夢も希望もなく聞き役に徹していたけども。

 ジェードとは孤児院で一緒にいたけど、この話題を口にした事もされた事もない。

 だからジェードがどう思うのか、今になって聞きたくなったんだけど口に出して後悔した。

 今まで話さなかったのは、ジェードにとって話したくない話題だったのかもしれない。

 自分とクロッカス殿下の事に気を取られて、ジェードの心情を蔑ろにしてしまった。

 なので訝しげに私を見つめたままのジェードに慌てて謝る。


「ごめん、やっぱり今の無し。忘れて」

「いや、別にいいよ。いきなりでビックリしただけだから。サクラがこんな事を言うの珍しいね。僕と同じで親に興味がないと思ってたよ」


 話しながらも視線を宙に漂わせて思考を巡らせているジェードに悲しみや怒りは見られない。

 言葉通り、興味がないから話題に出さなかっただけのようだ。

 それを知ってほっとする。


「僕は両親の記憶がないから、僕を捨てたのにどんな事情があったかは知らない。それでも迎えに来たら......昔だったら単純に喜べたかもしれないけど、今は無理だね。捨てられたせいで今の『職場』にいるわけだし。金に困りはしないけど、恨みの方が強いな」


 『王の影』で受けた仕打ちが余程響いているようだ。

 それがなければまだマシだったかもしれないが、悲しいかな、あの孤児院はおそらく『王の影』の経営だ。

 拾われた時点で結末は決まったようなものである。


「あの孤児院で魔法の扱いも勉強も教えて貰ったけど、それは親のおかげじゃない。魔法が使えなかったら路地裏で死んでただけだ。拾ってくれた孤児院の人たちには感謝してるよ。サクラにも会えたし。孤児院では良い事尽くめだった。ーーーでも、それを捨てた親のおかげだなんて、僕は到底言えないよ」


 そこまで話して、ジェードは静かに紅茶を一口飲む。

 そして再び私を見つめた。


「それも含めて、親を名乗る人間が現れても基本は無視かな。......金持ちだったら利用するけど」


 そう言うとジェードは狡猾な笑みを浮かべる。

 天使のような美少年なのに、そんな表情までよく似合う。将来が恐ろしい。


「......強いなぁ、ジェードは」


 うだうだ悩んでいる私とは大違いだ。

 私の呟きを聞き取ったのか、ジェードはむっとした顔になった。

 

「サクラの方が強いよ。なのにサクラをそんなに悩ませるなんて......。親って名乗りでる奴でも出てきた? 身元調べてあげようか?」

「そ、そんなわけないでしょ」


 思わず目が泳ぐ。

 流石、攻略対象。鋭い。

 でも身元を調べるのは勘弁してほしい。クロッカス殿下に迷惑がかかる。

 ジェードは暫く私の事をジーっと眺めていたが、私が話さないとわかったのか、ため息をついて紅茶に視線を移した。


 すまない、ジェード。聞いておいて答えられなくて。


 暫く気まずい沈黙が続いたが、ふとジェードが視線を上げた。


「ところで、そのピアスは何?」

「フォーサイシアとネイビーから貰ったんだ。似合ってる?」


 私がピアスを見せて尋ねると、ジェードは一瞬言葉に詰まったような気がした。

 しかし次の瞬間にはいつもの笑顔で答えてくれる。


「似合ってるよ。でもサクラは他の色も似合うんじゃないかな。僕がプレゼントしたら付けてくれる?」


 上目遣いで聞いてくるのが大変あざとい。可愛らしい。

 院長の教育だろうか。けしからん。

 でも弟のプレゼントなら喜んで受け取ろう。


「勿論だよ。でもファーストピアスは一ヶ月は付けないといけないから、少し後だね」

「は?」


 対面から地の底から響くような低い声が聞こえた気がしたが、気のせいだと思いたい。


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