プレゼント
子ども達の事もそうだけど、もう一つ気になることがある。
私は内緒話をするようにフォーサイシアに距離を詰めて、声の音量を落とす。
「その、こういう事を聞いていいかわからないんだけど……女王陛下との仲は?」
先ほどの話でも出ていた通り、今でも主人公である女王のアイリスと親交があるようだ。
ロータスの時と同様に、フォーサイシアルートを途中で中断させてしまったわけだが、こちらは手に手を取って逃げて捕まったロータスと違い、必要なら会うことができるし好感度も上げやすい。
ロータスは今現在、王都の邸宅で謹慎処分を受けているとか。秘密にされているとはいえ、女王陛下を連れ出そうとしておいて、それで処分が済むのはお貴族様だからだろう。
他の攻略対象であるフラックスは、殿下について仕事と政治の勉強に忙しくてアイリスと会っても私的な会話をすることはないと前に話していた。
隠しキャラのジェードも女王陛下付きの執事で近しい存在だが、ジェードの話しぶりからしてアイリスを意識しているとは思えない。長年の姉としての勘だけど。
そう考えると、攻略対象としてはフォーサイシアが一歩リードしているのでは?
そう思って尋ねてみたんだけど、フォーサイシアはなぜか私が距離を詰めた途端頬を赤く染めて、私から視線を逸らした。
「個人的に親しいかと言われればそこまでではないと思います。それに女王陛下には……心に決めた方がいらっしゃるようです」
そう言うとフォーサイシアは城の方を見つめる。
その顔は恋に恋するというより、純粋に女王陛下を心配しているように見えた。
それを聞いて、私は自分がある勘違いをしていた事に気づいた。
そうだ。これはゲームの世界だけど現実なんだ。
アイリスだってゲームの主人公じゃなくて一人の人間なんだ。
ゲームの進行とか、ルートとか関係なく―――好きな人はずっと好きなままなのは当然なんだ。
当たり前の事なのに、私は『ゲームの主人公』だからアイリスの考えを蔑ろにしていた。
そんな自分にショックを受ける。
ゲームでの活躍を知っているから、私はアイリスを『皆から愛されて奇跡も起こせるゲームの主人公』だとずっと思っていた。
けれどアイリスは15歳で望んでもいない玉座に座る女の子なのだ。
そんな子に私は―――
「サクラ!」
ネイビーの声で現実に戻ってくる。
見れば、花冠を被ったネイビーが無邪気な笑顔で駆け寄ってくる所だった。
初対面の時より血色が良くなっている。
地下の牢屋から出て日光に当たるようになり、食生活が改善されたからだろう。
「サクラ? 元気、ない?」
ネイビーはフォーサイシアとは反対側、私を挟むようにして座ると心配そうに顔を覗き込んできた。
「そ、そんなことないよ! 元気元気」
慌てて両手を握って元気さをアピールする。
今はアイリスや自分の両親の事は置いておこう。
幼女を心配させるわけにはいかない。
しかしネイビーの心配そうな顔は変わらず、少し唸った後に何かを思いついたように笑顔になった。
「サクラ、プレゼント、ある!」
「兄さん。最後に渡して驚かせようって言ったのに」
フォーサイシアが苦笑しながら苦言を呈す。
それにネイビーがツンとした顔でそっぽを向く。
「いい。サクラ、元気、大事!」
そう言いながら、ネイビーは小さな箱を私に手渡してきた。
同時にフォーサイシアも同じサイズの箱を私に渡してくる。
「ネイビー、助ける、お礼!」
「父さんの件で迷惑をかけましたから、そのお礼でもあります」
「そんな、いいのに……」
むしろ私は勝手に首を突っ込んで巻き込まれただけだ。
暫く辞退しようとする私と受け取ってもらおうとする双子の攻防戦が続いたが、結局二対一の説得には勝てずに受け取ることにする。
「せっかくなので開けてみて下さい。気にいってくれると良いのですが」
フォーサイシアに言われて小箱を開けると中に入っていたのはピアスだった。
フォーサイシアからは黄色。ネイビーからは紺色。
それぞれのイメージカラーのピアスが一つずつ入っている。
普通は二個で一つのはずなのに一個ずつしか入っていないという事は、別々につけるのではなくそれぞれの物を一緒につけて欲しいのだろう。
「ピアスに禰衡があるなら、イヤリングにも加工できますが……」
フォーサイシアの提案に首を横に振る。
「ううん、素敵な物をありがとう。余裕が出来たらまたピアスを付けようと思ってたから」
「また?」
ネイビーが首を傾げる。
しまった。ピアスを開けてたのは前世の話だった。
「ちょ、ちょうど開けようと思ってたの! でも最近色々あって忘れてたんだ」
まじまじとピアスを見ながら考える。
ピアッサーとかあるのかな。
異世界のピアス事情とかまだ知らないんだよね。
悩んでいたら、双子がそれぞれの色のピアスを手に取った。
「それなら今、付けていきますか?」
「手伝う!」
「え、今?」
ひょっとしてピアッサーとか持ってきてくれててのだろうか。
用意がいい。
前世でも自分で開けたことがあるし、軽く頷いて了承する。
すると双子揃って私の耳たぶに触れて、息を吹きかける。
ブツッ。
そんな音と主に双子は私から手を離した。
慌てて両耳に手をやると、そこにはピアスの感触がある。
「ビックリした……!」
「似合ってますよ」
「似合ってる!」
二人を非難めいた眼で見やるも、二人の笑顔を見れば許してしまう。
そのまま双子は悪戯大成功とでもいうように笑い合っている。
仲良しで良いことだ。
そこでふと、妹の言葉を思い出した。
『ネイビールートだとね、ラブラブ双子エンドが用意されてるんだよ~! 条件がすっごく難しいんだけどね!』
―――今、思い出してもあまり役に立たなさそうだな。
左右にどちらのピアスをしているかは、あえてボカして書いています。