教会にて
クロッカス殿下との話し合いが終わっても、私の日常は変わらなかった。
しいて言うなら、クロッカス殿下のお茶会に呼ばれなくなったくらいだ。
今、呼ばれても気まずいだけだからなぁ。向こうもわかっているのだろう。
結局は悶々としたまま、現状に甘えて仕事を続けている。
「浮かない顔をしていますね」
ぼんやりしていたら、フォーサイシアが私の顔を覗き込んできた。
今日は休みを使って、王都のとある教会に来ていた。
あの事件で保護された子ども達がどうなったか、気になってフォーサイシアに尋ねてみたらこの教会に案内してくれたのだ。
教会の外では子ども達の遊ぶ声が聞こえる。
見たところ皆元気そうで、事件の影を感じさせない。
下町育ちで強い子が多いのかもしれないが、心の傷を隠している子もいるだろう。
フォーサイシアは行くあてのない子たちを教会で保護してくれているのだ。
「私で良ければ話を聞きますよ。虹の女神に誓って守秘義務は順守しますので、なんでも話してください」
そう言って隣に座り、優しい笑顔を向けてくれるフォーサイシア。
きっと子ども達にもこうして真摯に向き合ってくれているのだろう。
何も出来ない私とは大違いだ。
ちなみにネイビーは保護された子どもたちと遊んでいる。
いや、あれは子ども達に遊んでもらっているのかな。
ネイビーは子ども達から遊びを教わって楽しそうにしている。
そんなネイビーを横目に見ながら、私は口を開く。
「この間、自分の両親の事を初めて聞いたんです。まだ自分の中で折り合いがつかなくて」
「肉親の問題は難しいですよね。私たちみたいに血がつながっていても上手くいかない事もあります」
フォーサイシアが苦笑する。
なんとなくだけど、フォーサイシアには私の両親の事がバレている気がする。
リリーさんの肖像画と、グレイ隊長の態度。さらには『雪の妖精』にそっくりな院長まで目撃しているのだ。
それでも何も言わずに話を聞いてくれるのはありがたい。
思わず甘えて色々話してしまいそうになる。
20歳にして、抱擁力が凄い。
「そういえば教皇様は……」
「自分の罪を認めて教皇の座を辞退したと聞いています。今は次の教皇を決めるのに、教会内も忙しなく動いていますよ」
本当に罪を認めたのだろうか。
グレイ隊長の言い分からして、事態を収めるために『そういうことにした』可能性もある。
しかし、あんなことをした人が教皇を続けていいわけがない。
次の教皇様に期待したいところだ。
そこでふと思い立った。
「フォーが教皇に選ばれたりして」
『恋革』のゲーム内では、どのルートでも基本的にはフォーサイシアが教皇になっていたはずだ。
しかしそれをフォーサイシアは笑って否定する。
「まさか。私はまだ若輩者です。父の件もありますし、教会への不信感を払拭させるために、民から人気のあって指導力のある人物が選ばれますよ」
「だったら猶更フォーが選ばれるんじゃないの? 元々人気があるし、子どもたちを保護するのも教会の人たちを説得して回ったんでしょ? それに女王陛下に進言して、身寄りのない子達を保護できるように教会と国で協力して制度を整えてるって聞いたけど」
若くしてそこまで出来るんだから、十分教皇になれると思うんだけども。
元々ある孤児院なんかは貴族や商人の寄付で成り立っていたから、それを国が整備できるなら助かる子どもが増える。
それは国にとってもいいことだと思う。
それを取りまとめられるんだから流石、攻略対象だ。ハイスペックである。
しかしフォーサイシアは相変わらず困ったように笑うだけだ。
「父の代わりにそれくらいはあの子たちにしないといけませんから。ただの罪滅ぼしです」