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水面下の攻防戦

「そもそもなんで院長に殺されかけたんですか?」


 初対面で殺しにかかる理由ってなんだろう。院長の本職が『王の影』っぽいから、それ関係かな。

 私の疑問にクロッカス殿下が答えてくれた。


「リリーが原因だな。リリーはあいつにとって、生き別れた大事な姉だ。私が無理矢理連れてきたと思ったんだろう。王都に着いた途端に殺しに来たからな」


 思い切り私情だった。

 でもリリーさんも院長と同じで『雪の妖精』に似ているから、政治的に利用されると思ったのかもしれない。

 だからって下調べせずに殺しにかかるのはどうかと思う。

 呆れている私に殿下は苦笑した。


「リリーと二人で話したら、ちゃんとわかってくれたさ。それでもあいつにとって私は姉を誑かした悪い男だからな。ずっと嫌われているんだ」

「え?」


 院長は殿下の事を嫌ってはいないと思うんだけど。

 殿下の事をいつも『優しい人だよ』って言ってるし、嫌いな人にわざわざ私の事を逐一話さないだろう。

 首を傾げる私にグレイ隊長がため息をついた。


「あいつは素直になれないだけで、殿下の事を嫌ってるわけじゃないですよ。なぁ、アンバー。お前もそう思うだろ?」

「私に聞かないで下さい」


 アンバーがグレイ隊長を睨みつける。

 グレイ隊長も負けずに睨み返す。

 そんな二人をクロッカス殿下は微笑ましそうに見て、再び私に視線を向けた。


「色々問題のある奴だが、あいつはスノウもサクラも大事に思っている。これからも仲良くしてやってくれ」


 そう語る殿下の眼差しは義理の兄弟と言うより実の弟に向けるような親しみが込められている。


「私もサクラを娘だと思っているが、サクラが望むなら顔を合わせないようにする。仕事も好きに辞めて構わない。今までの埋め合わせにサクラが一生遊んでも困らないくらいの額は用意してやれるが......」

「すみません。そこまでしなくて結構です」


 殿下がとんでもない事を言い出したので、慌てて止めに入った。

 そんな大金貰っても困る。

 絶対に持て余すし、碌な事にならない。

 そもそも今の仕事だって、殿下の娘じゃなければ紹介もされなかっただろう。


「私は今で満足してますので、このまま留めていただければ充分です。でも殿下の事は......色々言われてもやっぱり『父親』だと思えないんです」


 ここまで色々話してくれたのに、結局はそこに行き着く。

 気持ちって自分でも思い通りに行かなくて嫌になる。

 それでも殿下は微笑んでくれる。


「それで構わない。お前が幸せなら、私はどう思われても良い。ーーーこの話はこれで終いにしよう」


 そう言うと、話を切り上げるようにクロッカス殿下は隣にいるアンバーに目を向けた。


「ところでアンバー」

「はい」

「お前も何かサクラに言う事はないか?」

「特にありません。殿下」


 ニッコリ。

 そんな擬音が付きそうな笑顔の下で、無言の攻防戦を繰り広げている気がする。

 気がするだけだけど。


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