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妖精の血

 今までの話を聞いて、少し残念に思う気持ちがあった。


「院長が私に優しくしてくれたのは、殿下に命令されたからだったんですか」

「違うよ」


 思わず溢れた私の言葉を院長は強い口調で否定する。

 院長は普段の優しい笑顔を消して、真剣な眼差しを向ける。


「サクラ。ボクは最初、君とはあまり接触しないようにしようと思ってたんだ。子どもの君に事情を説明しても黙っていられるかわからないし、ボクは目立つから、下手に接触して君に騒がれたら迷惑だ。それに記憶が消える前の君を知っているけど、魂は同じでもまるで別人に思えたから」


 院長の言葉にドキッとする。

 確かに前世の記憶持ちで別人みたいなものだ。

 それを感じ取ったから、院長はこの世界で目覚めた私に本来知っていた名前とは別の名前を名乗らせたのかもしれない。

 ドギマギして視線を右往左往させる私に、院長は再び優しい笑顔を見せて、そっと手を重ねてくる。


「でも君はボクと普通に接してくれた。凄く嬉しかったよ。何気ない会話を楽しんで、次に会う約束をして、笑顔で別れられるーーーそんなのは今まで経験出来なかったからさ。それに君は努力家だ。ボクの教えた事をキチンと守ってくれた。だからいつも、君に会うのを楽しみにしてたよ」


 思い出すように目を瞑る院長の口元に穏やかな笑みが浮かぶ。

 少し冷たい院長の手ごしに、それが真実だと伝わってくるようだ。

 私はぎゅっと院長の手を握り返す。


「私も、院長と過ごす時間は楽しかったです。記憶がなくて不安だったけど、孤児院で楽しく過ごせたのは院長のおかげです」


 院長が魔力の扱いを教えてくれなかったら、自分だけ属性魔法が使えない事を根に持って、周りとトラブルになっていたかもしれない。

 なんせ10年も時間があったのだ。

 いくら精神年齢が大人であっても辛いものは辛い。


「サクラもそう思ってくれてたんだね。嬉しいよ」


 院長は金色の目を蕩けさせて笑う。

 しかし『普通に接する事』がそんなに嬉しかったなんて。

 原因は一つしかない。


「リリーさんは『雪の妖精』に似てるから持て囃されてたけど、院長はそれで苦労したんですね」


 私の言葉に院長が苦笑する。


「そうだね。ボクもそうだけど、姉さんだって苦労してたよ」


 今、衝撃の一言が飛び出した気がする。


「......姉さん?」

「うん。リリーはボクの姉さんだよ」


 さらっと笑顔で告白する院長。

 通りでリリーさんと似てるわけだ。

 すると院長は私の叔父さん?

 殿下が私を預けるわけだ。事情を知る親戚だもんな。

 混乱する中、私は姉弟の容姿を思い浮かべる。


「姉弟揃ってそんな特徴的な容姿って事は、二人とも『雪の妖精』に何か関係が......?」


 私の言葉に院長は頷いた。


「姉さんもボクも雪の妖精の子孫なんだ。何故か一世代に一人は『雪の妖精』と同じ白髪の子どもが生まれるんだよ。でも妖精由来の身体能力と、御伽話の『雪の妖精』に似た浄化能力があるだけで、他は普通の人間と変わらない......いや、属性魔法が使えなくなるデメリット付きの困った血なんだ」


 御伽話で『雪の妖精』は、世界を黒く染めてしまった神の子ウィステリアのために世界を雪で覆った。

 あれが浄化能力の例えか。

 御伽話を思い出す私の横で、院長の話が続く。


「でもボクが生まれた時には、もう姉さんがいた。二人も生まれるのは異例だったし、ボクは妖精が見えて話せるから『初代様の生まれ変わりだ』とか言われて......」


 話を続けようとする院長に、私は手を挙げて質問する。


「院長、妖精が見えるんですか??」

「見えるよ。今も周りにいる」


 院長は笑顔で辺りを指差す。

 見回しても何も感じない。

 やはり私は零感である。


「だからかな。周りが勝手に『初代様と同じような厄災が起こるのでは?』とか言い出して、姉さんは『雪の妖精の血を残すため』とか言って遠くに連れていかれたんだ。だからこの容姿で良い事はあまりなかったな。姉さんとは離れ離れになるし、勝手に『雪の妖精』として見られるし......説明するの面倒だから最近は否定してないけど」


 院長は遠くを見つめたままため息をつく。

 周りに持て囃されても似てるだけで勝手に色々決めつけられて、姉と離れ離れになった分、特別扱いなんて嬉しくないよね。

 院長の場合、顔まで容姿がそっくりだから余計苦労してそうだ。

 院長は私に目を向けると優しく頭を撫でる。


「君にはそんな苦労させたくなかったんだ」


 院長に撫でられたところから、髪の色が変わる。

 見慣れた薄いピンクから、院長と同じ白髪へ。


「ごめんね。勝手な事をして。君には同じような苦労をさせたくなかったんだ」


 責められると思っているのか、目を伏せる院長に私は笑顔を向ける。


「側にいなくても、ずっと守ってくれてたんですね」


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