目覚めと真実
目が覚めたら知らない天井が広がっていた。
突然幼女に転生した時もそうだった。
ただ私が泣き喚く事もなかったし、私の寝ていたベッドの近くには既に妖精のように浮世離れした美貌の持ち主ーーー院長が座ってこちらを見ていた。
「良かった。目が覚めたんだね」
優しく頭を撫でてくれる院長の声が心地良い。
このまま撫でられていると再び眠ってしまいそうなので、体を起こそうとしたが院長に止められた。
「まだ起きない方がいいよ。また具合が悪くなったら大変だ」
私は院長の言葉に従った。
私が気を失ってからどれくらい時間が経ったのかわからないが、また吐くのは御免である。
「院長、まだいてくれたんですね」
忙しい人だから、目が覚めたらいなくなっていると思っていた。
院長は穏やかな笑顔を私に向ける。
「当たり前でしょ? 体調が悪いサクラを放っておけるわけないよ」
「そう言われても、今まで姿を見せてくれなかったので」
恨みがましく睨みつけると、院長は目を泳がせた。
そのままじっと見つめていると、院長は観念したように口を開いた。
「......本当は君がピンチの時はずっと見てたんだけどさ」
「え? ずっと?」
「うん。蜘蛛の時もアネモネの時も。サクラに何かあれば一秒以内に駆けつけられるようにしてるんだ。今回はサクラが急に転移したからビックリしたけど、基本的に最初から最後まで見てたよ」
院長は悪戯がバレた子どもみたいな気まずそうな顔を浮かべている。
色々突っ込みたい所が満載の告白だったが、まずは言わせて欲しい。
「助けてくださいよ!!」
渾身の声を上げた私は間違っていないだろう。
院長は叱られて気まずい子どもみたいに視線を右往左往させている。
「だ、だって子どもの自主性は大事にしろって言われてて......。ボクはサクラに何でもしてあげたくなっちゃうけど、過干渉は良くないって殿下が......」
「殿下に何を話してるんですか......」
呆れていると、院長はぱっと顔を明るくした。
「サクラに会った時の事は全部話して自慢してるよ!」
「止めてくださいよ! 恥ずかしい!」
知らない間に私の情報が筒抜けになっている。
院長の事だから、本当に何も隠さず起こった事を全部殿下に話しているに違いない。
恥ずかしい以外の何物でもない。
顔から火が出そうな私とは対照的に、院長はふと優しいけど悲しそうな笑みを浮かべた。
「殿下だって、自分からは言わないけどサクラの話を聞きたいと思ってるよ」
ここまで言われれば流石に鈍い私でも気づく。
いや、今までの周りの反応から気づくべきだった。
「院長」
「なに?」
「私はクロッカス殿下とリリーさんの娘なんですか?」
クロッカス殿下と同じ瞳の色だのリリーさんに似てるだの言われていたし、グレイ隊長がよく『似てる』とこぼしていた。
そもそもフラックスが言っていた通り、孤児の私が殿下の下で働ける事がおかしい。
院長のゴリ押しにしても、何か理由があるはずだとは思っていた。
まさかこんな真実が隠されているとは思わなかった。
私の問いに院長は目を細める。
「それは殿下が話すべき事だ。大丈夫。あの人は優しいから、ちゃんと話してくれるよ」
はぐらかされたように聞こえるが、院長としては親子でちゃんと話し合って欲しいのだろう。
私をわざわざ殿下の近くに配置したのは、悪どい噂のあるクロッカス殿下の本来の人となりを知って欲しかったからだ。
否定の言葉がない時点で答えである。
ここから物語は後半に入ります。