現代知識
「フォー!」
ネイビーが呼びかけながらずっと揺すっているが、フォーサイシアが起きる事はない。
むしろどんどんフォーサイシアの顔色が悪くなっていく。
気のせいか、胸が上下していないように見える。
まさか、息が止まってる?
確かに『何か』に吹っ飛ばされていたけど、そのダメージだけではなさそうだ。
触れるだけで発動するHP減少のデバフ効果。
確かゲームでルートボスのネイビーと戦った時も同じ効果だった。
逆にネイビールートだと操られたフォーサイシアがルートボスで、同じデバフを振り撒いてくる。
成る程。さっきまで教皇が操っていた『何か』が取り憑いてルートボスの双子を操り、強化していたのか。
暴走の魔法陣なんて物を使ったらネイビーを思う通りに動かせないと思っていたけど、この仕組みも込みの計画だったんだろう。
ちなみにゲームでは倒したどちらのルートボスも、今のフォーサイシアと同じ状況になる。
選択肢を誤れば問答無用で死ぬのだ。
逆に選択肢を正解すれば助ける事が出来る。
ラブラブパワーで奇跡が起こって、アイリスの祈りに虹の女神が応えてくれるのだ。
だが残念。
ここには主人公のアイリスも、都合良く虹の女神が助けてくれる心神深い人間もいない。
フォーサイシアならワンチャンあったかもしれないが、そのフォーサイシアが倒れているのだ。
現実的な方法を取るしかない。
「嬢ちゃん、フォーサイシアを助けたかったらーーー」
グレイ隊長が何か言いかけたが、その時には私はフォーサイシアの隣に駆け寄っていた。
本当に息をしていない。
ネイビーはすでに涙目だ。
応急手当なんて前世で運転免許を取る時に習っただけだから、イマイチ覚えてないけどやるだけの事はやろう。
片手をフォーサイシアの額に、もう片方の手で顎を掴んで頭部を後屈させる。
そのまま唇を重ねた。
空気を吹き込む事二回、フォーサイシアが咳込んだ目を開けた。
良かった。心臓マッサージまでしなくていいらしい。
そんな事を思っていたら、フォーサイシアとバッチリ目が合う。途端にフォーサイシアの顔が真っ赤に染まった。
「な、なん、何を......」
咳込んだ時点で唇は離したんだけどな。その前に意識を取り戻しちゃったのか?
それは申し訳ない事をしたなーと思って謝ろうと口を開こうとしたら、後ろから肩を掴まれて双子から距離を取らされた。
「何やってんだよ、嬢ちゃん!?」
背後にいたのはグレイ隊長だ。
何故か凄い剣幕で怒っている。
「何って、心肺蘇生ですけど」
「しんぱ......なに?」
怒りの表情から打って変わって困惑の表情を浮かべるグレイ隊長。
ひょっとして、この世界は心肺蘇生の概念がないのか?
それなら後でクロッカス殿下に伝えておこう。話せばあの人は理解してくれそうである。
魔力のない人もいるし、それで助かる人がいるかもしれないから尚更だ。
そんな事を背後のグレイ隊長の顔を見ながら考えていたら、顎を掴まれて強制的に前を向かせらるた。
首を無理矢理動かされて、若干痛い。
見れば、目の前で顎を掴んでいるのはネイビーだ。
やけにムクれているていうか、拗ねているというか、嫉妬しているような表情だ。
どうしたのか声をかけようとしたがーーーその前にネイビーの唇で唇を塞がれた。
なんで?
心肺蘇生法は顎を挙上させて気道を確保したら、心臓マッサージ(胸骨圧迫)だけでも良いとされています。
主人公は10年前の前世の知識なので、そこら辺が曖昧です。