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零感

 階段を降りるとそこは広い空間になっていた。

 壁に点々と灯る蝋燭が禍々しく揺れ、円形に広がる地下を彩っている。

 床にはこれまた禍々しい魔法陣が印されているが、今回は何の魔法陣かわからない。

 でもこんなボス戦みたいな所にある魔法陣だ。良くない物に違いない。

 見たところ、出入り口は私達が入ってきた階段しかないようだし、双子が教皇を追い詰めているーーーと思いきや、今まさにフォーサイシアが壁に吹っ飛ばされたところだった。


「フォー!」


 ネイビーが悲痛な声を上げてフォーサイシアに駆け寄る。

 一方の教皇は高笑いだ。


「私に逆らった事を悔い改めるといい!」


 グレイ隊長も深刻そうな顔で教皇の側にいる『何か』を見上げる。


「おいおい。どれだけ犠牲にしたらそんなモノ出来るんだよ。何年前から準備してたんだ、お前は」

「知れた事。クロッカス殿下が市井で静かに暮らしていたリリー様を王都に無理矢理連れらて来た日から! 聖女のように優しく、誰にでも温かな笑みを向けるリリー様を殿下が己の欲のために帝国との戦に連れて行った時から! 必ず助けて女神の鉄槌を下すために準備してきたのだ!」


 教皇の話にグレイ隊長は大きなため息を吐く。


「殿下が姐さんを無理矢理戦場に連れて行くわけないだろ。むしろ姐さんは勇んで自分から飛び込んで行って、血塗れで笑いながら帰ってくる人だぞ」

「嘘を言うな! 虫一匹殺せない、心優しい人だ!」

「騙されてんだよ。そもそも姐さんは俺の剣の師匠だぞ。俺は何回も動けなくなるまでボコボコにされた」


 リリーさん、思ったより良い性格してるな。


「そもそもお前は姐さんに入れ込んで、奥さんに見限られて家庭内別居されてる方が問題だろ。いい加減、自分を見つめ直せ」


 それは擁護出来ない。

 双子から母親の話を聞かないと思ったら、そんな事になってたのか。


「減らず口を叩けるのは今の内だ! 行け! まずは息子を誑かしたあの娘からだ!」


 どうやら教皇が操る『何か』がこちらにくるらしい。

 が。


 見えない。


 他の人には何が見えてるんだ。ひょっとしてゲームの登場人物は全員霊感持ちなのか?

 私はモブだからか何も見えないし、何も感じないんだけど。

 おかげでイマイチ深刻さがわからない。

 足手纏い以前の問題である。

 これではバトル漫画の解説役にもなれない。

 助けを求めてグレイ隊長を見ると、彼は至極冷静に目だけ私に向ける。


「大丈夫だ。嬢ちゃんはそこにいるだけでいい」


 グレイ隊長がそう言うなら信じる他ない。

 私に照準が向いているらしいけれど、見えないから緊迫感も何もない。

 教皇の高笑いが響く中、グレイ隊長は動かず、私は困惑の中、立ち尽くしているとーーー。


 気のせいか『ジュッ』って音が聞こえた気がした。


 空耳かと首を傾げていたら、教皇は何故か驚愕の表情を浮かべた。


「なぜだ!? そんな簡単に術が解除されるはずがーーー」

「どれだけ怨み辛みの詰まった魂を集めて固めたところで、嬢ちゃんには意味ねぇよ。いるだけで片っ端から邪なモノは浄化されるし、触れれば大抵の良くないモノは消える」


 隙をついて一瞬で距離を詰めたグレイ隊長が、教皇を取り押さえて流れるように意識を落としながら答える。


 空気清浄機か、私は。


 相変わらず何も見えないし、何も感じないから実感が湧かないんだけどさ。


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