突入
「フォーサイシアの実力は知ってるだろ? お前ら、勝てるのか? まぁ、王都しか知らないお前らと違って、俺は戦争でリリーの姐さんと一緒に戦った仲だからな。お前らくらい、俺一人でも十分だけどよ」
衛兵たちはグレイ隊長の威圧でで完全に士気が下がっている。
不利を感じ取ったのか、教皇は突然身を翻すと地面の中に消えた。
「は?」
「あ!」
グレイ隊長と私が声を上げたのは同時だった。
「なんだよ、嬢ちゃん」
「そこに隠し通路があるんです! 子どもたちもそこに……!」
私たちがいたのは虹の女神や雪の妖精の像が並ぶ場所の近くだった。
つまり私とネイビーが出てきた隠し牢の入り口もこの近くである。
色々ありすぎて、教皇がその付近に立っているなんて気づかなかった。
この辺りだったかな~って意識だけで、一回で正確な場所を覚えるなんて無理だ。隠し扉から出る前も出た後もイベントが盛り沢山過ぎた。
しかも隠してあるだけあって、近づかないと草木に紛れて入り口が開いていても上手くカモフラージュされている。
「追いかけましょう!」
「うん!」
フォーサイシアとネイビーは真っ先に隠し扉に飛び込んでいく。
「あ、待て……って、聞いてねーな。さっきみたいに囲まれてた時は兎も角、自分から危険に飛び込むなよ」
グレイ隊長の静止の声は届かず、二人は階段を駆け下りていく。
ぼやきながらもグレイ隊長は自分の隊と衛兵それぞれに声をかける。
「お前ら、行くぞ。……そっちもついて来いよ。嬢ちゃんの話が本当なら、下を見りゃわかるだろ。ま、背後から仕掛けてきても返り討ちにしてやるだけだけどな」
グレイ隊長は衛兵たちに悪い笑みを向けた後で、今度は私に顔を向ける。
今度は一転して、気遣い溢れる心配そうな表情になった。
「嬢ちゃんは休んでろよ。顔色悪いぞ」
「え、わかります?」
「わかるに決まってるだろ。後は大人に任せて帰っていいぞ。護衛くらいつけてやるから」
今まで誤魔化せてたのに見破られてしまった。
一緒にいたフォーサイシアとネイビーが私と仲良くなって時間が短かったし、状況が状況だったから気づかれなかっただけかもしれないけど。
グレイ隊長も心配してくれているし、体調不良の私が行っても足手まといになるのはわかっている。
だが。
「私も一緒に行きます。先に行った二人が心配ですし、ここまで巻き込まれたら、教皇様を一発殴らないと気が済まみません」
それに、だ。
ここまでイベント目白押しで、護衛がついたとしても無事に帰れるか疑問である。
ゲームの強制力的な意味で。
絶対に無事に帰れない自信がある。
また何かあって巻き込まれるくらいなら、自分から関わった方がマシだ。
「それに私がいても、グレイ隊長なら余裕でしょ?」
「ああ、任せときな。何があっても守るぜ」
頼りになる大人の笑みを浮かべるグレイ隊長。
カッコイイんだけど、やっぱり私は親戚の叔父さん感が拭えない。
いつも迷惑かけて申し訳ないが、院長の次に頼りになる大人だ。
存分に甘えさせてもらおう。
精神年齢は同じ年なんだけどね。